冠水し、通行止めとなったJR山陰線をくぐるアンダーパス=松江市玉湯町湯町、2021年7月7日(資料)
冠水し、通行止めとなったJR山陰線をくぐるアンダーパス=松江市玉湯町湯町、2021年7月7日(資料)

 中国地方の梅雨入りがかなり遅れている。山陰地方の平年日は6月6日ごろだが、今年は19日時点で出ていない。そもそも「梅雨入り」「梅雨明け」の定義は何か。誰がどのように判断して発表するのか。梅雨にまつわる疑問に迫った。
 

 「梅雨」について、気象庁は「晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる現象やその期間」と定義する。

 中国地方の梅雨入りは広島地方気象台から発表される。春の穏やかな天候から、毎日のように雨や曇りが続き、大雨の可能性が高まる時期として、注意を呼びかけるためだ。

 島根県内の平年の降水量は、7月が年間を通して最も多い。雨が断続的に降ると地中にたまり、そこに大雨が襲来すると土砂災害のリスクが高まる。実際、人的被害が出た過去の気象災害の発生は7月に集中している。
 

梅雨入りの条件

 「梅雨入り」と気象庁が判断する条件は何か。

 松江地方気象台の担当者によると、1週間程度の天気予報を見て、おおむね曇りや雨の天気が続く場合に「梅雨入りしたとみられる」と発表する。「曇りや雨が何%以上」といった明確な基準はない。梅雨明けも同様で、晴れる日が1週間程度続くと「梅雨明けしたとみられる」と発表する。

 発表を「みられる」とぼかし、断言しないのは、季節の移りゆく時期を梅雨入りとしているためだ。

雨が降る中、傘を差して歩く市民=2023年5月、松江市朝日町(資料)


 気象庁は毎年9月上旬に夏の天候を分析し、その年の梅雨入り、梅雨明けの日程の確定値を公表する。より適当な日付があればここで修正する。

 例えば2022年、中国地方は6月28日に梅雨明けしたと発表した。速報値で梅雨の期間が観測史上最短とみられていたが、9月に入り、実際は7月26日だったと修正。多くの地方で観測史上最速とされていたが、記録ではなくなった。
 

今年の梅雨入りどのくらい遅い?

 中国地方は19日現在で梅雨入りの発表がない。早い遅いを判断する指標が平年値だ。

 現在の数値は1991年~2020年の30年分の観測値から導き出している。梅雨入り時期の場合、30年分のデータを並べると「早い」となる1~10番目は5月21日~6月2日、「平年並み」となる11~20番目は6月3~8日、「遅い」となる21~30番目は6月8~26日となっている。

 このうち、1~3番目(5月21~27日)と、28~30番目(6月14~26日)に該当する時期になると「かなり」がつく。10年に1度クラスの珍しさで、19日現在で梅雨入り発表がない今年は、既に「かなり遅い」段階だ。

 

梅雨入りあれこれ

 統計を取り始めた1951年以降、中国地方で梅雨入りが明確でなかった年はなかった。一方で、梅雨明けが発表されなかった年は1993年と2009年。晴れが1週間程度持続しなかったり、雨が続くうちに秋が来てしまったり、といったケースが該当する。

 梅雨入りが最も早かったのは、1963年の5月8日(明け7月13日)。最も遅かったのは2019年の6月26日(同7月25日)だった。

 梅雨明けが最も早かったのは1978年の7月3日(入り6月11日)。最も遅かったのは1998年の8月3日(同6月2日)だった。

 ただ、梅雨入りが遅くなったからといって梅雨明けが遅くなるとか、梅雨の期間と降水量の多寡には明確な相関関係はないという。
 

災害への注意

 梅雨の時期は豪雨災害に見舞われることが多い。

 太平洋高気圧とオホーツク海高気圧に挟まれた梅雨前線が島根県の沿岸やその付近に停滞し、太平洋高気圧の縁を回ってくる暖かく湿った空気が前線に流れ込むと大雨をもたらす。(図参照)

 

 土砂災害や洪水のリスクはもちろん、短時間に50~80ミリの非常に激しい雨が降れば、浸水被害が起こる。アンダーパスの排水が追いつかず、車が突っ込む被害も起こりかねない。

 近年は地球温暖化の影響で気温が高くなり、水蒸気をため込んだ空気が流れ込むと一気に大雨が降る。1時間に50ミリ以上の雨が降る回数が増加するとともに、雨が降らない日が増えている。

 広島地方気象台が5月に発表した中国地方の6~8月の3カ月予報は、7月の降水量について、梅雨前線などの影響を平年より受けやすくなるため「平年並みか、多い見込み」としている。松江地方気象台の担当者は「自治体の避難情報に気を付けてほしい」と呼びかける。

 (新藤正春)