今季初めてブランド認定されたどんちっちアジ=5月23日、浜田市原井町のはまだお魚市場
今季初めてブランド認定されたどんちっちアジ=5月23日、浜田市原井町のはまだお魚市場

 島根県西部の益田市から津和野町へ向け、車で高津川沿いを走ると、川面からのびる長い竿(さお)を何本も見かけた。季節を感じる鮎(あゆ)釣りの風景だ。

 森鴎外にとっては、生まれ育った津和野を懐かしむ味だったのだろう。高津川の干し鮎や焼き鮎が古里から毎年送り届けられ、好んで食べたという。『鷗外先生の食卓~家族が見た文豪の食生活~』(山岡浩二著)に詳しい。

 同書によると、鴎外はドイツで学んだ衛生学者としてのこだわりから、生ものを口にしなかった。刺し身はそのまま食べず、わざわざ火鉢にかけて醤油(しょうゆ)煮にしたそうだ。だとすると、こちらの美味は存分に堪能できないかもしれない。浜田漁港で「どんちっちアジ」の出荷が始まった。刺し身をちょこっと浸した醤油に染み出てくる脂の量が旬を物語る。

 脂乗りを測定し、認定するブランド魚の初出荷は昨年より1カ月余り遅く、鮎の竿釣り解禁とほぼ同じ時期となった。海の異変だろうか。近年は水揚げが低迷し、最盛期と比べると20分の1の水準にまで減っている。一昔前のように、スーパーの売り場でブランドシールが貼ってある刺し身パックを見かけない。今年は出足が遅かった上に、なかなか増えてこないらしい。

 じめじめとした雨の日が続くと脂が乗ってくると、取材でかつて聞いたことがある。そういえば、今年は梅雨入りもまだだった。いつになるだろうと、箸を持って待つ。(史)