自身の道場前で撮影に応じる柔道日本男子の鈴木桂治監督=1月6日、東京都町田市
自身の道場前で撮影に応じる柔道日本男子の鈴木桂治監督=1月6日、東京都町田市

 今年1月、東京都町田市にオープンした「KJA道場」。2004年アテネ五輪男子100キロ超級金メダリストの鈴木桂治さん(44)が開いた柔道道場だ。22年秋に生まれた三女にはダウン症と心臓疾患があり、生後3カ月で手術。その際に医師から「ダウン症の人は自分の存在に否定的になることが多い」と、衝撃的な傾向を告げられた。

 そこで「そうか」と受け止めるだけではなかった。「だったらダウン症の人への対応を変える」。幼稚園などで開いてきた柔道教室を発展させ、療育の拠点をつくろうと動く。

 三女が生まれるまで気付かなかった障害者と健常者の間にある壁やゾーニング(区分け)。両者が集える場があっても1日限りの行事だったり、「迷惑をかけるから」と保護者が自粛したり。そしてできる「機会の格差」。拠点としての道場は、産後うつの傾向にあり「(三女を)産まなければよかった」とも口にした妻のためでもあった。

 道場には障害児を含め60人が通う。療育施設としての認可基準はまだ満たしていないが、生き生きと動くわが子の可能性を見いだした保護者の変化が何よりうれしいと、先日の講演会で話していた。

 鈴木さんは来月開幕するパリ五輪の柔道男子日本代表監督。「(拠点づくりは)五輪が終わってからでも」との批判もあるが「自分の優先順位は家族が一番」ときっぱり。思わず「一本(勝ち)」と、片手を上げた。(衣)