島根県内の高齢者福祉施設が、入所者の口腔(こうくう)ケアの充実に向けて連携する歯科医師の確保に苦慮している。定期的に歯科医や歯科衛生士を招いてケアを実施する施設は全体の1割にとどまる。口腔ケアは新型コロナウイルスの重症化リスクを低減するためにも重要で、専門的な知見に基づいた取り組みが求められている。 (佐々木一全)
口腔ケアは適切な歯磨きの指導で口の中を清潔に保つとともに、ものをかみ、飲み込む力を養う。虫歯や歯周病の進行などで咀嚼(そしゃく)力が弱まれば、肉類など歯応えの強い食材を食べられなくなり、免疫力の低下に直結するとされる。
介護保険制度では、施設側が医師らと連携してケアに関する技術指導や計画策定などに取り組んだ場合、日常生活の介助や介護に伴う基本報酬とは別に保険者(市町村など)から追加で報酬が支払われる。県高齢者福祉課によると、制度対象となる県内施設164カ所のうち、2020年4月時点で入所者へのケアは20カ所にとどまる。
ケアが進まない背景には歯科医師数の減少がある。10年10月時点で283カ所あった診療所数は19年10月には268カ所となり、診療所の歯科医師も14年の363人から18年は347人に減った。同課によると、施設側が協力してくれる歯科医師を独自に探すことが難しいという。
厚生労働省は今年4月から歯科医師と連携した口腔ケアの取り組みを基本報酬に組み込み、施設の通常業務として実施を求める。3年間の猶予期間はあるものの、施設側が歯科医や衛生士の確保を主体的に行わなければならない状況は変わらない。
県歯科医師会(内田朋良会長)は、日本歯科医師会に対し、口腔ケアに対する歯科医師への報酬の仕組み作りを促し、施設側とスムーズなマッチングを進めたい考えで、内田会長は「施設側が頼みやすく、かつ歯科医側が引き受けやすい環境を何とかして実現させたい」と述べた。