大学入学共通テストへの英語民間検定試験と記述式問題の導入は、将来も見送られる見通しになった。大学入試の在り方を検討してきた有識者会議が、課題解決のめどが立たないとして「実現は困難」とする提言を文部科学省に提出した。
文科省はこの二つを入試改革の柱に据え、今年1月から実施の共通テストで導入予定だったが、受験生らの反発を受け、2019年末までに次々と見送りを決めた。高校の実情を考慮せず、既定方針に固執し頓挫した経緯をみれば当然の結論だ。
提言は、新学習指導要領で学ぶ生徒が受ける25年以降の入試から各大学の個別試験での活用を促した。文科省はこの失敗に学び、今後の教育政策に反省を生かすべきだ。
特に英語民間試験は、新型コロナウイルス禍で中止や延期を強いられたことから、採用しても混乱に拍車を掛けたはずだ。
英語民間試験で課題になったのは、試験会場が都市部に偏り、地方の受験機会が限られる地域格差や、高額な受験料で困窮家庭の受験生が不利になる経済格差だった。記述式は約50万人の答案を短期間で公平に採点する態勢の構築が難しいことなどが課題だった。
いずれも容易に解決しないことは最初から分かっていた。あえて有識者会議で再検討する形にしたのは、政治への配慮があったからではないか。
入試改革は、国際社会で活躍する人材を育てたい産業界と、その意向を受けた政治家の思惑で始まった。13年、当時の安倍晋三首相直轄の教育再生実行会議が「知識偏重の1点刻みの試験」からの脱却を掲げ、大学入試センター試験に代わる新テストを提言。その後、政治主導の強引とも見える動きの中で、英語民間試験と記述式導入が既成事実化していった。
このため、提言は、入試改革の意思決定に「議論の透明性の確保」と「慎重な立場の者の意見や当事者の懸念も考慮すること」を求めた。
政治家の決定を官僚が拒めない構図の犠牲者は受験生だ。入試の大きな変更は2年前までの予告が原則で、本番1年前の変更は極めて異例だった。
提言は文科省に対し、受験生に与えた影響を真摯(しんし)に受け止めることを求めた。政治家や文科省、大学の責任は大きい。ただ、英語民間試験が「話す」技能などを効率的に測れる点は認めた。記述式も考えを論理的にまとめる思考力や表現力の育成に重要だとした。国は個別試験での活用に知恵を出すべきだ。
有識者会議は構想が頓挫した19年末に始まり、議論は1年半以上、28回にも及んだ。この間に行われたのは、高校生を含む幅広い関係者に話を聞くなど本来やるべき作業のやり直しだった。文科省は委員に促されて国公私立大に初めてアンケートを実施。学部への問いでは、記述式で8割以上、英語民間試験で7割近くが否定的だった。もっと早く実施すれば展開は全く違ったのではないか。
頓挫の引き金は萩生田光一文科相の「身の丈に合わせて頑張ってもらえば」との発言だった。その反省からか、子どもの貧困対策の専門家も委員に選ばれ、積極的な発言が会議を先導した。地理的・経済的条件に配慮した受験機会の確保など「実質的公平性の追求」が重要だと提言に盛り込まれたのは、その功績だろう。この成果は他の教育政策にも反映してほしい。