静岡県熱海市の大規模土石流は、発生の起点にあった盛り土がどれだけ影響したかがクローズアップされている。この盛り土は、建設残土を処分することで造られたとみられ、建設現場から搬出される土砂の安全な処分・管理という課題を突き付けたと言える。

 建設残土は都市の再開発やトンネル工事などから出た土砂のうち、再利用できなかった土砂のことを指す。人目につきにくい山の中に運ばれて、谷を埋めるようにして処分される例が目立っている。

 建設残土が運び込まれやすい大都市周辺の自治体を中心に、受け入れを規制する条例が制定されてきた。このため、規制のない自治体を狙って残土が運ばれるという「いたちごっこ」の状況にあると指摘できる。

 三重県紀北町の現場を見たことがあるが、山の中に突然、大規模な盛り土が現れた。階段状に固めながら土砂を積んだのだろうが、大雨で崩れると、どれだけの被害をもたらすかを考えると心配になった。首都圏などから船で運ばれて処分されており、県は慌てて昨年4月に条例による規制を始めている。

 この建設残土による盛り土の崩落は国土交通省のまとめで2001年から15年間で14件あり、人的被害も発生していた。東日本大震災などでは、大規模に宅地造成された地域で、谷や沢を埋めた盛り土の地滑りが発生し危険であることも認識されている。

 これだけ盛り土の危険性が明らかになっているにもかかわらず法規制について国は、昨年1月から始まった総務省行政評価局による「建設残土対策に関する実態調査」の結果を見て判断するとしてきた。深刻な災害が起きる可能性を想像していなかったとすれば、怠慢ではないか。

 赤羽一嘉国交相は8日に熱海の被災地を視察した後、盛り土の安全を確保するための規制の在り方を検討する考えを示したが、遅すぎる。自治体側はこの災害の前から法による規制を提言していたからだ。

 例えば、近畿ブロック知事会は2年前に、地方自治法による条例罰則の上限が「2年以下の懲役または100万円以下の罰金等」と軽く、条例だけでは抑止力が不十分として法律による規制を求めた。

 法制度については(1)建設現場での土砂の発生から搬出、処分に至る流れを管理する仕組みを構築する(2)残土の処理を許可制にして、安全確保のための処分基準を定める(3)抑止力のある罰則を設ける―などとしていた。

 林業の衰退もあって山林の利用価値が下がってきており、樹木を伐採して土地を改変し、大規模な太陽光発電所を建設する例も目立っている。

 このため安全を確保しようと急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害警戒区域などへの立地を制限する条例を導入する自治体も増えている。

 だが、建設残土と同様に、条例の対応だけでは実効性に限界がある。小泉進次郎環境相は記者会見で、山林開発などで災害を招く恐れのある太陽光発電所の立地規制を検討する考えを示した。

 地球温暖化のため一度に降る雨の量が増え、水害、土砂災害の危険性が高まっている。危ない場所での、建設残土による盛り土、太陽光発電所の立地の両方とも早急に法的に規制し、安全を確保すべきである。