このところ、国内の有名演奏家の訃報が続く。一昨日、国際的なバイオリニストの辻久子さんが95歳で亡くなった。先月にはエレキギター奏者の寺内タケシさん(享年82歳)、サックス奏者の原信夫さん(同94歳)らが帰らぬ人となった。クラシックからロック、ジャズまでそれぞれの道を究めた達人の相次ぐ他界。往時の活躍を偲(しの)びつつ、冥福を祈る▼自宅を売りバイオリンの名器ストラディバリウスを3500万円で購入したことで話題を集めた辻さんは、筋金入りの関西人としても知られる。東京に再三誘われながら、にべもなく断り、活動拠点を生涯にわたり関西に置いた▼辻さんが活躍したクラシックに比べ「ジャズは二流。世間から低く見られている」と、ジャズに対する世間の見方を変えることをライフワークにしたのが原さん。適当に崩れているのがジャズの格好良さではあるが「演奏者まで崩れてはならない」と、自ら率いた日本を代表するジャズのビッグバンド「シャープス&フラッツ」のメンバーらに厳しい規律を課して〝品行方正バンド〟に導いた▼「不良の温床になる」と、全国の学校から締め出されたエレキを「どこが悪い」と擁護し、エレキのイメージチェンジに身を粉にしたのが寺内さん▼それぞれの道に意地と志に哲学あり。畑の違いを超え、3人が天国でコラボ演奏する姿を想像してみる。弔意とわくわく感が同居する。(前)