屋根や道路を打ち付ける激しい雨に、恐ろしさを感じた人は多かったろう。山陰両県を襲った記録的な大雨は農作物にも爪痕を残した。収穫期のスイカやトマト、種をまいたばかりの大豆…。自然を相手にする農業の難しさと怖さを改めて思い知らされる▼今年から本格出荷となった島根県産ブドウの新品種「神紅(しんく)」は無事だろうか。浸水だけでなく、ブドウにとって梅雨時期の湿気は大敵で、実が割れる裂果の原因となる。乾燥にこそ弱いように思えるが、水分を吸収した果粒が水ぶくれ状態となり、膨圧に耐えきれずに果皮が破裂する原理らしい▼ただ、県が育成したこの新品種について言えば、裂果しにくい特長を持つ。だとすると、はじけるのは人気の方かもしれない。全国的に数少ない大粒の赤色系で、ぱっと見に映える。さらには人気絶頂のシャインマスカットと同じように皮ごと食べることができ、糖度は20度以上とそれを上回るというから期待せずにはいられない▼「神」様が集まる国の「紅」いブドウに由来する名称がまだ決まっていない頃、一口ほど試食したことがある。抜群の甘さとみずみずしい香りが口いっぱいに広がった記憶がよみがえる▼そうこういう間に梅雨が明けた。気温がぐんぐん上昇すると、糖度も出荷量も増してくる。豪雨を身近に経験したからこそ、地元農作物のありがたみを感じながらじっくりと味わいたい。(史)