国民生活にさまざまな規制や自粛を求める新型コロナウイルス対策では、国民が政府の呼び掛けに納得し、協力する信頼関係が欠かせない。
ところが、政府の側から信頼関係を損なう失態が続いている。政府は酒類を提供する飲食店を規制するため、酒の販売事業者に取引停止を要請した。だが、関係団体や与野党から厳しい批判を浴びて撤回した。先に、金融機関の飲食店への働き掛けを求めた要請を撤回したのに続く迷走だ。
菅義偉首相がコロナ対策の「切り札」と強調するワクチンの供給を巡っても、方針が二転三転し、混乱を招いている。
最高指導者の首相や取引停止を打ち出した西村康稔経済再生担当相らの責任は重い。だが首相は自らの責任を認めず、西村氏も辞任を否定した。これで政府への信頼を取り戻せるのか。失態を猛省し、コロナ対応を根本から立て直すべきだ。
酒の販売事業者や金融機関への要請は、新型コロナ特別措置法にも根拠のない措置だった。緊急事態宣言下で酒類を提供する飲食店に要請する休業を徹底させるために考え出した対策なのだろう。
しかし、取引上弱い立場にある飲食店に金融機関などを使って圧力をかける手法や、政府が指示すれば法的根拠がなくても販売事業者らが従うという発想は傲慢(ごうまん)であり、商売の現場への配慮も欠いている。
問題なのは、今回の措置が、発表前に関係閣僚の会合で事務方から報告されていたことだ。首相は相次ぐ撤回を謝罪はしたが、事前協議に関しては「具体的内容は議論していないので、承知していない」と述べた。問題だという認識すらなかったということだろう。
金融機関への要請では、内閣官房と金融庁、財務、経済産業両省が事前に調整していた。だが麻生太郎副総理兼財務相は「ほっとけばいい」と秘書官に指示したという。コロナ対応は内閣が一体で取り組むべき課題ではないのか。無責任状態が極まっている。
ワクチン供給では、接種ペースを1日100万回に上げるようハッパを掛けたのは首相自身だ。ところが自治体が集団接種会場を増やすなどフル回転した結果、予想を超える120万回に達し供給不足が表面化。すると政府は一転して、大阪、名古屋両市など一定の在庫を抱えると見なす自治体にはワクチン割当量を減らすと表明した。
河野太郎行政改革担当相は「不足も目詰まりもない」と供給態勢の不備を否定する。しかし8月以降に全国へ配る米ファイザー製ワクチン1170万回分は、2割強を「調整枠」としてワクチン不足の市区町村に回す。地方の現場で供給減が起きているのは明らかで、実際に各地で予約停止などの混乱が生じている。
「4千万回分」が未接種のまま自治体や医療機関の在庫になっているとも政府は指摘するが、自治体側は「余っていない。国は実態を見てほしい」(吉村洋文大阪府知事)と反発、国、地方の対立が深まった。
首相は接種加速化が進んだ際には「世界最速のスピード」と胸を張った。しかし政府は供給不足を招いた運用の不備を認めないばかりか、地方に責任転嫁するような姿勢を示す。長く続くコロナとの闘いには国、自治体の信頼関係も不可欠であることは言うまでもない。