松江城天守国宝10周年記念事業「八雲立つ 千鳥舞う いやさかの祈り」に出演する尾上菊之丞さん(左)と尾上右近さん=大阪市中央区、国立文楽劇場
松江城天守国宝10周年記念事業「八雲立つ 千鳥舞う いやさかの祈り」に出演する尾上菊之丞さん(左)と尾上右近さん=大阪市中央区、国立文楽劇場

 松江城天守の国宝指定10周年を記念し、舞と和楽器による公演「八雲立つ 千鳥舞う いやさかの祈り」が11月9日、松江城二の丸上の段(松江市殿町)である。気鋭の和楽器奏者たちと特設の野外舞台に立ち、舞を披露する日本舞踊の尾上菊之丞さんと、歌舞伎俳優の尾上右近さんに見どころや島根に関する思いなどを聞いた。
(広島支社・錦織拓郎)
 

 -菊之丞さんは演出、振り付けも担当する。どういった公演となるのか。

 菊之丞「右近さんと東京で以前に上演した『八雲立つ』という神話の世界を描き、石見神楽の大蛇(おろち)も登場する詩楽劇の作品が発想の土台。われわれのルーツとなる神々の世界を感じつつ、山部泰嗣さん(作曲家・演出家)を音楽監督に、和楽器で楽曲をオムニバスに奏でながらソロや、2人で踊る。演奏者は決して『バックミュージシャン』ではなく、舞と一体化するイメージだ」
 

 -2人とも本公演を含め、日本舞踊、歌舞伎という自らが育った世界を飛び越え多方面で活躍中だ。

 右近「異分野への挑戦は自分の人間力が試され、冒険心へとつながっている。開放的な楽しさもあれば恐怖も、プレッシャーもあるが、未踏の世界へと足を踏み入れていくような感覚がある。山部さんとは以前、歌舞伎の配信公演をする際にご一緒したが、出演者として双方の存在を高め合える音楽家という感覚。今回のセッションも非常に楽しみだ」

 -本公演は、築城から約400年の歴史を持つ松江城の城郭に特設した野外舞台が会場となる。

 菊之丞「自然を体に感じ公演できるのは一つの醍醐味(だいごみ)。どんな感じとなるのか楽しみだし、ありがたい。花鳥風月、自然への敬意や畏敬の念を感じつつ、タイトルにふさわしい内容へとできればと思う」

 右近「やはり表現者なので、その場の空気を感じて反応し、動くのは自分としても非常に好きな仕事。こうした特別な公演に参加させていただく以上、一期一会の気持ちを大事に、取り組みたい」

 -島根との思い出や、つながりは。

 菊之丞「古事記や出雲大社などを題材とした物語の取材で、かなり来ている。感動したのは石見神楽の公演。子どもたちを含め、地元の方々が芸能というものを本当に、身近に感じていらっしゃる印象を受けた」

 右近「公演でもうかがっているが、よく覚えているのはたたらの鉄作りを体験したこと。冬なのに灼熱(しゃくねつ)の暑さで、人の手で作ったとは思えない物を作り上げる。その経験は今でも自分の骨身、血肉となっている感覚が強い」

 -公演を待つ地元の人たちへメッセージを。

 菊之丞「その土地のエネルギーというものが絶対にある。島根、山陰には神話が生活に根付いている。われわれもそうした引力に引き寄せられ、こうした機会を頂いたと思う。歌舞伎座(東京)などで行うのとは異なる、野外ならではの臨場感で楽しんでいただける場をつくりたいと準備をしている」

 右近「歌舞伎や日本舞踊には『伝統芸能とは何か』ということを詳しく知らなくてもインパクトを与えられる『力』があると思う。その力というのは話として理解するより、感じるものだと思う。とにかく会場へ見に来ていただきたい」

   ◇

 おのえ・うこん 1992年生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎。7歳で初舞台、12歳で「二代目尾上右近」を襲名。歌舞伎界にとどまらず大河ドラマ、ミュージカル、歌番組など多方面で活躍中。年内には2本の映画公開を控え、ディズニー映画の日本語吹き替え版で声優にも初挑戦する。

 おのえ・きくのじょう 1976年生まれ。日本舞踊・尾上流三代家元の長男として2歳から父に師事し、5歳で初舞台。2011年、四代家元を継承すると同時に「三代目尾上菊之丞」を襲名。古典はもとより、新作歌舞伎、スケートショーなどの振付師・演出家としても多彩に活躍する。

 

 野外ならではの臨場感

 公演は第1回が正午、第2回が午後3時に開演。チケットは全席自由で前売り券(販売中)が税込み4千円、当日券が同4500円。小雨決行。問い合わせは山陰中央新報社文化事業局事業部、電話0852(32)3415。