気がついたら居酒屋の洋式トイレに顔を突っ込み、流れ出る水で口をゆすぎ、顔を洗っていたという。

 「その時は本当に『きれいな水が流れている』と思い込んでいました」

 過剰なアルコール摂取で感覚はまひしていた。

 島根県内在住の40代男性は若くしてアルコール依存症になった。度を超えた飲酒量でわれを忘れ、失敗を何度繰り返しても、酒を断てなかった。

 新聞の原則は「実名報道」だ。一方、匿名でなければ語れない背景や事情を持つ人も多くいる。その声から社会の断面を見る「顔なき…声」。今回は島根県内に暮らし、依存症を克服した人たちの体験談を追う。

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 男性は10代の終わりごろから飲み始め、酒量が人並みではなかった。

 人とうまく接することが得意ではなかった。酒を飲むと距離が縮まり、仲良くなったような気がした。ストレスがたまっても、酒を飲むと翌日はすっきりと目覚められると思い込んだ。

 毎晩欠かさず、記憶がなくなるまで飲み続けた。...