今年も猛暑だった。夏を過ぎても続く暑さで、いまや秋の時間が失われつつある。今村夏子「七月三十一日晴れ」(「新潮」10月号)は、短い秋に夏をしのぶにふさわしい1作だ。

時間の地層

 舞台は「紀伊水道に面する人口四千人ほどの小さな漁港町」。主人公・小山康代は、60年前から営業している老舗観光ホテル「花海峡」に勤める。23歳で始めた住み込みの仕事も、...