2021年版防衛白書は米中対立が激化する中で、台湾情勢の安定が「日本の安全保障や国際社会の安定にとって重要だ」と初めて明記した。4月の日米首脳会談で、中台関係の「平和的解決」の重要性を確認したことを受けた記述だ。

 中国の習近平国家主席は7月初め、共産党創建100年の重要演説で、台湾との「祖国の完全統一は党の歴史的任務」と改めて強調した。中国は台湾への武力威嚇や、国際社会から孤立させる戦略を続けている。

 中台双方の隣国である日本が台湾情勢の安定と平和的解決を求めるのは当然だ。しかし、懸念されるのは、中国が台湾に侵攻した場合、日米で防衛するべきだとの「武力行使論」が政府内や自衛隊の元幹部らから再三出ていることだ。

 憲法は戦争、国際紛争を解決する手段として武力の威嚇・行使を永久に放棄している。台湾有事=武力行使という発想は冷静さを欠く。まずは有事を招かないよう中国との対話と抑止の両面のアプローチが不可欠だ。

 3月、米インド太平洋軍司令官は議会で中国が6年以内に台湾に軍事侵攻する可能性があると証言したが、具体的な根拠は示さなかった。

 6年後といえば、中国の経済力が世界一の米国に迫り、来年から異例の3期目を狙う習氏が任期を終える時期だ。元自衛隊幹部は「習氏が遺産として台湾侵攻に踏み切る可能性は十分」と主張。一方、元外務省高官は「侵攻すれば、中国に大きなマイナスがあると習氏はよく分かっている」とし、台湾有事という言葉の独り歩きを戒めた。

 重要なのは、中国が武力に訴えないよう対話を通じて働き掛け続けながら、米欧やオーストラリア、インドなどと連携して適切な対中抑止を図ることだろう。

 麻生太郎副総理は講演で、中国が侵攻した場合、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態」として、日米で台湾を防衛すべきだと述べた。政府ナンバー2として極めて慎重さを欠いた発言である。

 6年前、安倍前政権が安保法を強引に制定した時、国会を取り巻く若者たちら多数の国民が憲法の「戦争放棄」に照らして認められないと反対を叫んだ。

 安保法は「密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる」などの要件を満たせば存立危機事態として集団的自衛権の行使を認める。「放置すれば日本の安全に影響を与える」とみなされた場合は重要影響事態として米軍の後方支援を行う。有事の中身に応じたシミュレーションが必要だ。

 日本は1972年に中国と国交を正常化した際、日中共同声明で「台湾は中国領土の不可分の一部」とする「一つの中国」を「理解、尊重する」と明記した。有事にこの約束を破棄するのかも検討しなければならない。

 中国外務省は麻生氏の見解について「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。不用意な発言は抑止でなく挑発となり、日中間の相互不信をあおって対話の基礎を揺るがしかねない。

 中国の強大化に伴い対中戦略の練り直しをしなければならない。政府は台湾有事にどう対応するかも検討しておくべきだ。有識者や経済界など幅広く国民の意見を聴き、透明性を確保した総合的な議論を始めたい。