中国山地のたたら製鉄に系譜をたどるプロテリアル(旧日立金属)安来工場。国内外の自動車や家電メーカーの生産を支える世界屈指の良質な「工具鋼」を提供する技術の礎は、同社の冶金(やきん)研究所で培われた。「本質を見よ」―。同研究所で研究をけん引した奥野利夫(88)=安来市在住=は、幾度となく壁に突き当たりながら、工場に伝わるこの言葉を信じ、不屈の精神で難局を乗り越えた。その精神は令和となった今も色あせることなく、現場に引き継がれている。(敬称略・文・多賀芳文)

 日本が飛躍的な成長を遂げた今から60年ほど前の高度経済成長期、若き日の奥野は旧日立金属安来工場の冶金研究所にいた。与えられた任務は工具鋼の研究と製造、改良。工具鋼は強度や耐衝撃性、耐摩耗性に優れ、工具のほか、金型や金属に用いる刃物、治具などに使われる特殊鋼だ。  国内では当時、自動車産業が目覚ましい成長をみせ、車両のアルミ部品をつくる金型「ダイキャスト金型」の需要が急増。日立金属も当時、工具鋼分野に経営資源を集中させた。奥野は「社内のさまざまな要求にどう応えるかを...