新型コロナウイルス感染症の1日当たりの新規感染者が1万人を超え、政府は東京に続き首都圏3県と大阪府に緊急事態宣言発令を決めた。第4波までとは様相が異なり、縮小に向かうのはいつになるのかも分からない。災害に例えれば激甚災害に相当する事態だ。

 感染者が急増した要因の一つは、感染力が従来株よりはるかに強い「デルタ株」が主流になったことだ。ワクチン接種が進んで規制が緩んだ各国で、未接種の人に同株が流行している。

 もう一つの要因はより深刻だ。社会がまん延防止等重点措置や緊急事態宣言に慣れきって行動が緩んでしまった。流行拡大への危機感が政府と自治体、国民の間で共有されていない。

 東京都の福祉保健局長はメディアに対し「いたずらに不安をあおらないように」と発言したそうだ。その認識は幾重にも間違っている。

 確かに病床は拡大し、重症化率も下がった。医療逼迫(ひっぱく)には余裕があるかに見えたのは、体力があり持病の少ない年代に感染対象が移った結果に過ぎない。感染者数が過去最多を更新し続ければ、余裕はなくなる。

 発言の後のモニタリング会議で専門家は「経験したことのない爆発的な感染拡大」に向かうと警告した。病床が増えても医療者は直ちに増えない。現場は早晩回らなくなり、新型コロナにとどまらず、急病や事故の患者の受け入れに遅れが発生する。局長発言はまた、地方への波及についても想像力を決定的に欠いている。東京から遅れて患者が増えてきた地方では、医療体制も脆弱(ぜいじゃく)なところが多い。

 根拠なく楽観的なシナリオに期待するのではなく、最悪を想定し、それを避ける具体策を示すのが行政の役割だ。行政と専門家が矛盾するメッセージを発信することこそ、国民の混乱を招く。

 ほぼすべての都道府県で感染は拡大中だ。宣言地域以外の自治体が、人流を減らす手だてを地域の実情に応じて実行できるような支援の枠組みを設けるべきだ。

 飲食を中心に、人が集まる場への対策が特に急がれる。西村康稔経済再生担当相の謝罪問題で懲りたか、政府は酒類提供への働きかけを言わなくなった。だが、オリンピック強行が社会に誤ったメッセージを伝え、宣言下の繁華街では休業中の店の間に酒を提供する店が散在し、マスクなしの老若男女で混み合う。

 十分な金銭補償とセットで休業、時短を促進しなければならない。時短協力金の拡充、給付迅速化へのてこ入れは大前提だ。テレワークによって人流を抑えるのも、単なる要請にとどまらない支援策を講じてしかるべきだろう。

 個人レベルでは、既に誰もが知っている基本に立ち返るほかない。自身の感染を避け、身近な人たちにうつさない方策は依然としてマスク、換気、手洗い、密を避ける、である。感染を防ぐ暮らしを心掛けていた人ほど、感染者が急増しても行動は変わらない。地味で持続力が要るそれらの努力をどう促すか。専門家と一体となった強いメッセージの発信を、政府は怠っていないか。

 そしてワクチン。集団免疫の獲得が容易ではないことが判明した半面、接種による感染、重症化の予防効果はデルタ株でも高い。接種の加速は最重要課題になる。