ワクチン供給不足問題を巡る対応(写真はゲッティなど)
ワクチン供給不足問題を巡る対応(写真はゲッティなど)

 新型コロナウイルス対策の切り札とするワクチン接種事業を巡り、菅義偉首相は供給不足問題に直面し、打開に苦慮している。東京五輪下、ワクチン輸入の前倒しを求めて臨んだ米ファイザー社とのトップ会談は、不発となった。一体、何が話し合われたか。その後、英製薬会社のワクチンを新たに使えるよう打ち出したものの、副反応の懸念は残る。感染「第5波」がうねる中、事業の先行きは見通せない。

 「その余裕はない」。五輪開幕日の7月23日朝、ファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)が首相に告げた。10月以降に輸入されるワクチンの予定量のうち、約1千万回(500万人)分の9月への前倒しを狙った交渉が不調となった瞬間だった。

 ブーラ氏を迎え入れたのは、首相公邸でなく、華やかな舞台として大統領ら賓客をもてなす施設、迎賓館(東京・元赤坂)。政権内で、どこで会うか議論があった中、迎賓館で朝食付きとなった。「首相は並々ならぬ決意」(政府筋)だった。

 ブーラ氏を当てにしたのには、理由がある。4月17日の米ワシントン。首相は訪米したものの、ブーラ氏と会えず、宿泊する大統領迎賓館での電話協議の形で相対した。ワクチンの追加供給と東京五輪の選手ら用のワクチン無償提供が事実上、固まった。今回は、ホームに招いての直談判だ。

 河野太郎行政改革担当相が同席した。日本側は自治体がワクチン不足を訴える実情も踏まえ「もう少しほしい」などと求めた。ブーラ氏は、世界的に需要が高まる一方で「日本は足りている」という立場を崩さなかった。

 官邸が当日発表した会談の概要では、核心部分は「今後のワクチンの安定供給などについて意見交換を行った」とした。政府関係者は「前倒しはうまくいかなかった。継続協議だ」と話した。官邸筋は「(ブーラ氏にとって)ビジネスですから」と力なく語った。

 現在、市区町村が事業で使うワクチンは主にファイザー製。4~6月に約1億回(約5千万人)分が日本に届いた。7~9月は約7千万回(約3500万人)分に減り、10月以降、2千万回(1千万人)分程度が入ってくる予定だ。

 潤沢な供給が一転し急減する中、スピード接種へ供給をさらに増やしてほしいと考えていた自治体側とのミスマッチの解消が急務だ。こうした首相の現状認識が、トップ会談の背景にあった。

 「希望する自治体に速やかに提供していく」。首相は30日の記者会見で胸を張った。次の一手として目を向けたのは、接種に使えるワクチンの種類を増やすことでの供給量のかさ上げ。主に自治体で使うファイザー、職場接種などで使う米モデルナ製(いずれも12歳以上に接種可)に加え、英アストラゼネカ製のワクチンを30日、事業で使えるようにすると決めた。

 海外では打った後、ごくまれに血栓症の発症が報告され、厚生労働省が使うのを見送ってきた経緯がある。海外の例を参考に、対象は「60歳以上」と限られた使い方が想定されたが、今回の判断では「原則、40歳以上」と幅を広げた。国内で生産できるという利点もある。政府関係者は「すでに都市部の自治体から『使いたい』と引き合いがある」と明かす。

 与党内からは早くも「使いたい人がどれくらい出てくるか」(ベテラン議員)との声が上がる。関東地方の首長も「実際には使いにくい。住民が反発する」と心配する。

 インド由来のデルタ株は感染力が強く、ワクチン効果が弱まるのではとの懸念もある。厚労省幹部は気がせく。「接種があと1カ月進めば、感染をなんとか落ち着かせられるはず。ただ、デルタ株のスピードは異常だ」