【短歌】安部 歌子選

つゆ付けて新蕎麦静かにすするとき新任地の町ふつと思へり    米 子 倉井 正喜

  【評】新任地で作者には忘れられない思い出があったのだろう。静かに蕎麦(そば)をすすりながら、あの日のあの町を静かに思い起こしている作者。「静かに」の一語に作者のさまざまな思いがこもる。

藍色に染め抜く屋号秋の雨秋祭り近き古都の通りに        松 江 森脇よし子

  【評】古都の通りに揺れているのれん。屋号が藍色に染め抜かれているという上句がいい。秋の雨、秋祭りと「秋」が重なるが...