短歌 安部歌子選

みぞそばの咲きし川辺に降り立ちて農衣の泥を洗ふ夕暮れ     雲 南 難波紀久子

 【評】一日の農作業を終え農衣の泥を落としている作者。技巧も気負いもなく、さらりと詠みながら読む者にさまざまなことを思わせる。川辺に咲くみぞそばの可憐(かれん)さと農衣の泥の対照がいい。

八十六歳一病ならず三病の持病抱へて吹く祭笛          奥出雲 重親 峡人

 【評】「一病ならず三病」がこの歌の核。過疎の村の祭りであろうか。八十六歳の作者も駆り出されたのだ。三病を抱えながらも作者は前向きだ。結...