新型コロナの影響が続く飲食店。最低賃金の大幅な引き上げに伴い人件費負担が増す=松江市内
新型コロナの影響が続く飲食店。最低賃金の大幅な引き上げに伴い人件費負担が増す=松江市内

 6日までもつれ込んだ島根県の最低賃金を決める審議は、目安を4円上回る32円の引き上げで決着した。過去最大の引き上げ幅に労働者からは歓迎の声が上がる。経営者にとっては時給引き上げによる人件費増が重荷となり、特にコロナ不況から脱しきれていない飲食店などからは不満が噴出した。 (部田寛孝)

 松江市内の飲食店でアルバイトをする女子短大生(19)は「時給が上がるならうれしい」と声を弾ませた。

 就職活動に必要な交通費などを稼ぐため、コロナ禍で控えていたアルバイトを春先から始めた。収入は月約3万円。感染拡大の状況によってバイト先の勤務時間が減る不安もあり、「1円でも多く蓄えを増やしたい」と話す。

 人件費の負担が増す経営者側の反発は強い。「なぜこのタイミングなのか」。松江市内でコンビニエンスストア複数店を経営する男性(43)は語気を強めた。

 20人いるアルバイトで最も低い時給ランクは学生の800円。824円に引き上げられる改定に合わせて賃上げは必至だが、公平性を保つためには最賃のラインに掛からない人を含め全体を引き上げなければならない。年約2400万円の人件費は100万円近く増える計算だ。

 売り上げはといえば、コロナ禍の観光客減少が来店者数に響き伸び悩む。「フランチャイズ加盟料などを差し引くと、手元に残るお金はどんどん減っていく」と嘆息する。

 居酒屋などを経営するふくまる(松江市伊勢宮町)は、コロナ禍の3月にすし店をオープンしたばかり。

 福島将美代表は、長い目で見て消費拡大につながる賃上げには賛成だが、今はただでさえコロナの影響で飲食業界は疲弊の色が濃い。「最低賃金の引き上げが回復の足かせになりかねない」と案じた。

 審議会委員として引き上げゼロを求めていた島根県経営者協会の森脇建二専務理事は「これまでにない重い結論」と受け止めた上で、「企業の存続だけでなく、労働弱者の雇い止めなどが起きる恐れがある。賃上げに伴う国の企業支援の拡充が必要だ」と訴えた。