つい先日まで耳をつんざくような大合唱だったセミの鳴き声が少しずつ穏やかになり、秋への移ろいを告げている。この変化は、自然のサイクルを反映している。ひとつ終われば別の何かが始まる。

 残念ながらこのコラムも今回が最後。これまでお読みいただいた読者のみなさんには感謝しかない。山陰地方の美しい自然と豊かな文化遺産を徒歩で探訪し、山陰への深い愛情をみなさんと分かち合えたならば光栄だ。最終回となる今回は、過去の散歩を紹介するのではなく、未来に向けた私の夢をお話ししたい。

 何年も前の9月のある日、私は高瀬山の頂上に立ち、北側の眺望に見とれていた。その日は、見渡す限りどこまでも視界が広がるような快晴だった。出雲の海岸からゆっくりと東に視線を走らせると、島根半島の全長にわたり稜線(りょうせん)が途切れることなく続いていることに気が付いた。その瞬間、あるアイデアがひらめき、それ以来ずっと私の心に留まっている。その稜線に沿ってハイキングコースを造り、日御碕から美保関まで歩けるようにしたらどんなに素晴らしいだろうか?と。

 この20年間、日本では長距離ト...