宍道駅近くの交差点に古い石の標識が立っている。そこには「左、広島。右、大社」と彫られていて、これまでその石標の前を幾度となく通ったが、ある休日の早朝、突然出雲大社まで歩いてみたいという気まぐれな衝動に駆られた。わくわくしながらルートを確認すると、その昔に人々がしたのと同じように、弥山を目印にできることに気が付いた。一瞬、広島方面に行くことも頭をよぎったが、さすがに150キロも離れているし、夕食までに帰ると言って出かけたので断念した。

 右へ向かう道は国道9号につながっているため、朝の通勤ラッシュの排気と騒音の中で、いにしえの旅人になりきろうとしていた幻想はすぐに消え去った。それに動じることなく歩みを進めると、やがて田園地帯の静かな道を見つけた。曇り空が薄く透き通った青いベールのように頭上に広がっていた。暖かくて心地よい気温のなか、畑と集落が交互に広がる広大な出雲平野を横切った。

 日本の風景の中でも、田園地帯を歩くと特に癒やされる。それぞれの田んぼは静かな...