手の中で跳ねる小ぶりのアユに串を刺す。塩を振り、備長炭の火であぶる。串を絶えず動かし、うちわで仰ぐ。次第に表面は黄色みを帯び、香ばしいにおいが厨房(ちゅうぼう)に漂い始める。アユに耳を近づけ、音の具合で焼き加減を確かめる。

 東京・銀座にある日本料理店「銀座小十(こじゅう)」で板前たちが休む間もなく、動き続けていた。「ミシュランガイド東京2025」で二つ星の名店だ。全体を統括する店主の奥田透(55)が時折、一人一人に目をやる。

 アユは焼き上がるまでに約1時間か...