子どもの頃、東京・浅草で暮らしていた矢口壹琅(やぐち・いちろう)は近所の体育館でプロレスを見た。見せ物小屋の闇の中で味わった、好奇心と恐怖がない交ぜになったような感覚を覚えた。小柄な選手が巨体の相手を倒す技に圧倒された。それ以来、プロレスの魅力に取りつかれ「自分もプロレスラーになりたい」と夢を抱いた。

 3歳で母親を亡くした。伯父が育ててくれたが、10歳の時に離婚。伯父の妻だった女性に連れられ、東京から千葉へ。中学生になると柔道を始めた。オリンピックに出場し、...