6歳のガブリエル・シュミット(80)は、姉がこぐ小舟の中で泣きじゃくっていた。1951年の初夏。北極に近い世界最大の島グリーンランドの集落を離れ、大型船が待つ町へ向かいながら。

 大型船の行き先は約3500キロ離れた宗主国の北欧デンマーク。母は他界し、父が8人きょうだいを育てていた。「父は私を手放したくなかったはずだ」。理由を聞かされずに家族から引き離され、ガブリエルの涙は船上でも止まらなかった。

 デンマーク政府は、植民地だった島の先住民イヌイットの生活や...