臨時医療施設などについての課題と国への要望
臨時医療施設などについての課題と国への要望
感染第5波の真っただ中、コロナ患者の治療に当たる医療従事者(画像の一部にモザイク加工してあります、埼玉医大総合医療センター提供)
感染第5波の真っただ中、コロナ患者の治療に当たる医療従事者(画像の一部にモザイク加工してあります、埼玉医大総合医療センター提供)
臨時医療施設などについての課題と国への要望
感染第5波の真っただ中、コロナ患者の治療に当たる医療従事者(画像の一部にモザイク加工してあります、埼玉医大総合医療センター提供)

 政府は新型コロナウイルス患者向け病床の逼迫打開に向け、臨時医療施設や入院待機施設の設置を促す。共同通信の調査では全国の都道府県・政令市のうち25自治体が7月以降、新たにこれらの整備に乗り出したと判明。医師や看護師不足に直面する現状が浮かんだ。「国が責任を持ち対策を講じてほしい」(山口県)と、地方頼みへの懸念も。「ハコをつくれば済む話ではない」。医療現場の悲鳴は届くのか―。

 ▽非常に困難

 「病院にお願いするのも限界がある」「臨時の医療施設などで効率的に対応し、コロナ病床を確保しないといけない」。3日、田村憲久厚生労働相は記者会見で強調した。病床不足は救急搬送の調整難や自宅療養者の急増を招いており、コロナ患者の受け入れ先拡大が急務。田村氏は自治体の取り組みに期待する。

 だが思惑通りに進むかは疑問だ。共同通信の調査では、受け皿施設整備の課題を複数回答可で尋ねると「医師・看護師など医療人材の確保」を挙げる自治体が9割以上を占めた。岐阜県は「人材の確保に非常に困難を来している」と悲痛な声を上げる。人員を巡り「強力な支援を求める」(茨城県)「確保策をこれまで以上に推進してほしい」(愛媛県)と、政府のリーダーシップを求める意見が並んだ。

 他に「休棟していても施設の設置場所として提供したがらない病院が多い」(静岡県)「病床の効率的運用を図っているが瞬間的に重症用病床が全て埋まってしまうことがある」(沖縄県)など課題は山積だ。

 ▽緊迫続く現場

 医療現場の緊迫は続く。「これ以上負荷が掛かったら通常診療が止まる」。埼玉医大総合医療センターの岡秀昭医師(感染症科)は危機感をあらわにした。同病院のコロナ病床は、重症者用は常に満床。中等症用も常時7~9割が埋まる。

 8月上旬から駐車場でプレハブの臨時病棟も稼働させた。通常の病棟では感染症専門医が重症者を治療し、改善した患者は臨時病棟に移して専門外の若手医師が容体を見守る。重症者を1人でも多く受け入れるためだ。

 しかし、重症者に対応できる専門スタッフは限られる。昼夜を問わない激務は1年半以上に及び「スタッフは週1、2日は帰宅できず精神的にも限界。退職者も出た」と打ち明けた。

 岡医師は臨時医療施設の整備について「病床不足改善につながる可能性がある」と評価するが「ハコをつくってベッドがあればいいというものではない。人材をどう確保するか、政府や自治体の手腕が問われる」とくぎを刺す。

 ▽集める工夫

 厚労省はこれらの施設に医師や看護師を派遣する病院への補助金を倍増。推計約71万人いる離職中の「潜在看護師」の掘り起こしも進める考えだ。ただ政府関係者は「ワクチンを打つのと、コロナ患者に直接対応するのとは心理的負担が違う」と話し、難航を予見する。

 山形大の村上正泰教授(医療政策学)は「診療報酬引き上げなど政府の財政支援は打ち出されている。加えて、人手を集める工夫が必要だ」と、自治体にも取り組みを求める。

 例えば、限られた人数で効率良く診るために自宅療養者を臨時医療施設に集約したり、コロナ患者を受け入れていない病院から人材を順番に少しずつ派遣したりといった方法を挙げる。「医師会や看護協会、病院の間で連携できないか、丁寧に見直してはどうか」と、自治体の調整機能の重要性も指摘している。