絵・くさなり
絵・くさなり

 大人になっても、親になっても、「性」のことは分からないことばかり―。情報化が進み、幼児期から性にまつわる情報に簡単に触れられる現在、子どもを取り巻く環境は昔よりも危うくなりつつある。わが子に正しい知識を教えられるように、まずは私たち大人が、曖昧だった知識を学び直し、理解を深めよう。そして子どもへの効果的な伝え方や、伝えるタイミングなどを知り、今日からできる「性教育」への一歩を踏み出そう。産婦人科専門医で、島根大保健管理センターの河野美江教授と一緒に学んでいく。

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 日本の子どもたちは、テレビや漫画、会員制交流サイト(SNS)など、多くの「性情報」にさらされています。性教育は「寝た子を起こす」と言われますが、実は子どもたちは、もう目覚めていて、何も知らずに性犯罪や性暴力に遭うこともあるんです。「同意がない性行為は、犯罪・暴力だということ」「『嫌だ』と言うこと」「何かあったら、親に伝えること」は、子どもを守ることにつながります。小さい頃から、こうした知識を繰り返し伝えることが重要です。

 とは言っても、何から伝えればよいか、きっかけがないと難しいかもしれません。子どもはいきなり「赤ちゃんはどこから生まれるの?」などと質問してきます。子どもにとっては「友達のおうちに赤ちゃんが生まれた」「テレビでパンダの赤ちゃんが生まれるニュースを見た」などの「きっかけ」で質問することが多いのですが、親にとってはドキリとして、うろたえてしまいますね。

 でも、こういうときがチャンスです。まずは「○○ちゃん、どうして聞こうと思ったの?」と問い掛けてみましょう。優しく話を聞いてあげるだけで、子どもは満足します。赤ちゃんが生まれる話が描かれている絵本などがあれば、一緒に読んで「お母さんの性器から生まれたんだよ」とお話しされてもいいでしょう。分からなければ「調べて、あとでお話しするね」と伝えたらいいのですよ。

 「あなたが生まれた時はね」とお話しされてもいいでしょう。できれば「痛かった」などネガティブな話ではなく、「うれしかった」といったポジティブな話がいいですね。子どもは、自分が産まれた時の話は大好きなので「もっと話して」とせがみます。それも大事な性教育です。

 親子で性の話をしたら、子どもはうれしくなってほかの家族にも「こうなんだって!」と話すかもしれません。その時ほかの家族が「何言ってるの」と否定しては、嫌な気持ちになります。家族にも、子どもに性について話すことの大切さを理解してもらっておくのがよいと思います。この記事や、「おうち性教育はじめます」(KADOKAWA)、「サッコ先生と!からだこころ研究所」(リトルモア)などの本を「家で子どもに話そうと思うので、読んでね」と、家族に手渡してみてはいかがでしょうか。

 性教育が目指すのは、子どもに「自分は愛されて生まれてきた」と実感させ、「自分はかけがえのない人間なんだ」と、自己肯定感を高めてもらうことです。大事なのは事実を淡々と話すこと。私たちは皆、性の営みによってこの世に生を受けています。また、好きな人との付き合い方などは、古今東西、多くの人の悩みでもあります。こうした心と体の変化を、科学的に分かりやすく伝えるのが性教育。性は「いやらしいもの」ではなくて「大切なもの」と、自信を持って親が伝えられたらいいですね。

 思春期になり、子どもが学校などで嫌なことがあったときや、体に不調があったとき、きっと「親に相談してみよう」と思うでしょう。その土台作りに、性教育が役立ちます。まずはあなた自身が「性は恥ずかしいことではない」と心から思うことが大切です。

 こうの・よしえ 松江市生まれ。松江北高を経て佐賀医科大卒。松江生協病院女性診療科に産婦人科医師として勤務し、思春期外来を開設する。2014年には「一般社団法人しまね性暴力被害者支援センターさひめ」を開設。医学博士。

 子どもに伝える「性」について、河野先生に質問してみませんか? メールはkurashi@sanin―chuo.co.jp。