新型コロナウイルスワクチンの3回目接種の実施を厚生労働省のワクチン分科会が了承した。必要性は認めたものの、対象者や順番、時期について専門家の考えは一致しなかった。予防効果が時間の経過でどう変わるかを示すデータは十分ではない。国や自治体は準備を急ぐ必要があるが、具体的な方針がいつまとまるかは不透明だ。海外では幅広い追加接種に慎重な意見も出ている。
「私の関係する病院グループでは接種した人の感染が起きている。新型コロナに携わる医療従事者には早めに対応してもらえないか」。17日の分科会で、国立病院機構本部の伊藤澄信総合研究センター長は、早期の追加接種を求めた。医療従事者には2回目を終えてから半年以上たつ人もおり、予防効果の低下による院内感染への不安は高まる。次いで優先対象となった65歳以上の高齢者も接種から数カ月たつ人が多くなってきた。
米国の予防接種に関する諮問委員会が8月末に示した資料によると、ワクチンの感染予防効果は時間の経過とともに落ちていく。感染を防ぐ抗体の量も減っていくとの報告も国内外で出ている。
予防効果を再び高めるため、欧米を中心に3回目の接種に着手する国が相次ぐ。ただ、対象者はさまざまで、12歳以上に拡大したイスラエルに対し、ドイツやフランスは重症化リスクの高い高齢者や持病のある人などに限定している。
▼「科学的な根拠ない」
17日の分科会では「医療従事者に必要かというと、科学的な根拠は必ずしもないのではないか」「追加接種には同意できるが、誰に打つかを明確に合意するのは難しい」との意見が出た。
結論を出すのを難しくしている要因はデータの不足だ。イスラエル工科大は、米ファイザー製のワクチンを3回接種した人は2回接種の場合に比べ、感染リスクを11分の1、重症化リスクを20分の1に減らせたとの分析結果を発表したが、対象は60歳以上で、若い世代は含まれていない。
感染、発症、重症化を防ぐ効果が全て落ちていくわけではないとの指摘もある。米食品医薬品局(FDA)の幹部や世界保健機関(WHO)の専門家チームは13日、抗体が減っても、免疫細胞による別の防御策が働くため重症化予防の効果がただちに弱まるわけではないとし、一般の人にまで幅広く3回目の接種が必要だと示すデータや証拠はないとの見解を英医学誌に寄稿した。
▼対応迫られる自治体
不確定な要素は多く、分科会が了承した「2回目接種から8カ月以上たっている」との方針も、新たなデータが出てくれば再検討される可能性がある。厚労省は年内開始を視野に準備を急ぐが、同年代でも接種した時期は異なり、接種券を配布する自治体は難しい運用を迫られる。
川崎市健康福祉局の坂元昇医務監は議論の中で「いま接種を進めている中で、3回目の準備ができるのか多くの市町村が疑問に思っている。少なくとも一般市民は年明けにしていただく方がよい」と指摘。他のメンバーからも「結論ありきではよくない」と、拙速な議論を避けるよう求める声が上がった。