人間国宝の染織家・志村ふくみさん(101)は東日本大震災の発生2日後に手紙を書いた。<何という大きな無残、悲哀が一挙にこの国をおそったことでしょう。(中略)どう暮(すご)してよいのか、ただ仕事をするしかありません。本を読み、考えるしかありません。今また水俣の哀(かな)しみが湧いてきました>
相手は30年来の友人で、『苦海浄土』など水俣病に関する作品で知られる作家の故石牟礼道子さん。津波に福島第1原発事故…。草木の命をいただき染め織る志村さんと、万物の命を尊び、経済優先の近代を問い続けた石牟礼さんは、自然の脅威と人間が起こした惨事にがくぜんとしながら手を動かし続けた。
それぞれの立場で自然との関係を根本から問い直そうとした2人。その思いと行動は共著『遺言 対談と往復書簡』にまとめられている。
あの震災からきょうで15年。直後に広がった自然回帰の風潮や脱原発論、便利さや効率への反省は、生成人工知能(AI)の普及をはじめとする膨大な電力需要や、エネルギー安全保障への不安、経済成長を求める声になりを潜めた。
今年は4月で旧ソ連のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故から40年、5月で水俣病の公式確認から70年の節目の年でもある。一度壊れたら戻らないものがあることを何度も見せつけられたはずなのに、それを忘れて経済優先に回帰していいのか。2人の思いをかみしめる。(衣)














