2007年6月の設立から“原宿から世界へ”というビジョンのもと、きゃりーぱみゅぱみゅや新しい学校のリーダーズといったアーティストやモデルのマネージメント、イベントの企画・運営など、日本のポップカルチャーを牽引してきたアソビシステム。近年では、アイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」の各グループがSNSでのバズをきっかけにブレイクし、昨年末の『NHK紅白歌合戦』にはFRUITS ZIPPERとCANDY TUNEの2組が初出場、今年2月にはFRUITS ZIPPERがデビュー4年目で東京ドーム公演を成功させた。来年には創業20周年を迎えるアソビシステムの代表取締役社長の中川悠介氏に、0から1を生み出す信念や発想の源、勢力を拡大するアイドルプロジェクト、ジャパニーズカルチャーのグローバル展開の3つを軸に話を聞いた。
【写真】KAWAII LAB.が快進撃 アソビシステム中川悠介社長
■「ストーリーがあることを大切に」アソビシステムが貫く信念
──アソビシステムは来年6月で創業20周年を迎えられます。創業当時は何を目指されていたのでしょうか。
【中川】アソビシステムを作ったのが25歳のときでした。就職した経験はなく、当時はどんな会社にしたいとかは全然考えていなくて、とにかくエンターテインメントに関わっていたいという気持ちが強かったです。
──創業当時はイベント運営が中心だったんですよね。
【中川】そうですね。イベントはずっと変わらずやっていますし、今でも好きです。去年7月に開催した「ASOBIEXPO 2025」(千葉・幕張メッセ 国際展示場 ホール9~11)は出演者が所属アーティストのみ、制作も自分たちで手がけて1万2000人を動員したんですが、本当にやりたかったことだったので、創業18周年で実現できたのはうれしかったですね。
──さまざまな分野において0から1を生み出し続けてこられた中で、信念や発想の源になっているのはどんなことでしょうか。
【中川】アソビシステムだからやれること、やる意味があることについて、常に考えています。「KAWAII LAB.」を立ち上げた当時は、すでにむすびズムやIDOLATERも手がけていたので、「アソビシステムがアイドルをやるの?」とよく言われていました。でも今になってみると「アソビシステムっぽいよね」と言われるんですよね。売れるからやるではなくて、ストーリーメイクが大事だと思っているので、事業の中にストーリーがないものはなくて。アソビシステムとしてやる意味やストーリーがあることを大切にしています。
──KAWAII LAB.がひとつのジャンルとして確立されてきたからこそ、「アソビシステムっぽい」と言われるようになったと思うのですが、中川さん自身が思うアソビシステムらしさと、周囲が思うアソビシステムらしさは相違があるものですか?
【中川】それは絶対にあると思っていますし、あっていいものだと思います。自分以外の人から見えている景色はすごく意識しないといけないとも思っていますね。それと、KAWAII LAB.が確立されてきたとは思っていなくて、まだまだやるべきことがあるという焦りは常にあります。
──どうなったら確立されたと感じられるのでしょうか。
【中川】グローバルに展開していくとかチャレンジする場所はまだまだあって、やりきれることはないのかなと思うんです。それは、きゃりー(ぱみゅぱみゅ)でも(新しい学校の)リーダーズでも中田ヤスタカでもみんなそうだと思うんですけど、マネージメントやプロデュースの立場として、いいときも悪いときも含めて、長くずっと付き合っていくという考え方なので、確立とかゴールはないなと思っていますね。
■「人がすべて」──急速に拡張するアソビシステムの組織論
──アソビシステムではイベント運営やマネージメント、レーベル業務も手がけていますが、組織や環境作りにおいて重視されていることはありますか?
【中川】新しい社員が増え、現在では100名を超える組織となりました。急速な変化に伴い、社内のコミュニケーションや情報伝達、共有をしていくことが難しくなってきているので、改善しなければと思っているところです。タレントも社員もそうですが、育ってきた環境が違う中で「どれだけアソビシステムの感覚をつかめるか」がすごく大切だと思っていて、現場の数や社内でのランチ会、交流会などでコミュニケーションの回数を増やすようにしています。ただ、「アソビシステムの感覚」というのはマニュアルやルールがあるわけではないので、コミュニケーションの中で徐々に自分のものにしてもらえればいいのかなと思っています。
僕の考え方というのは多分社員が悩むところだと思うんですけど、あんまり答えを言わないというか、ふわっとさせておいて、ダメならこっちに行けばいいじゃんみたいなところがあるんですよね。自分の限界を決めてしまうことでそれ以上飛べなくなる「ノミの原理」がありますが、僕の中にも「レールやゴールを決めるとそれ以上伸びない」という感覚があります。アメーバのように考えを変えていったり、3ヶ月後の目標は決めても1年後のことは決めないといったことが大切なのかなと思っています。
──アソビシステムではどういう人材を求めていらっしゃるのでしょうか。
【中川】本質的にはやっぱり“人”がすべてだと思っていて。スタートアップの出資、サービスやレーベルを選ぶときも結果、会社の規模や会社自体ではなくて、“人”だと思うんです。例えば他社と組んでいる事業でも、自社のスタッフだから、他社のスタッフだからというのは関係なくてワンチームじゃないですか。そう思ったときに、人としてのフィーリングが合うか合わないか、どれだけ同じ感覚で仕事できるかが重要だと思っているので、そういう感覚的な相性みたいなものを一番大事にしていますね。
──感覚的な相性というのはどのように見極められているのでしょうか。
【中川】直感もありますし、面談した社員の「この人は合うと思います」という言葉も大事だと思っています。そういう感覚をポイントにしているからか、社員や業務委託でも以前在籍していた社員の“出戻り”も多いんですよ。一度辞めてもアソビシステムの感覚は共有できていますから。
■バズで終わらせない SNS×ライブで生む“持続するヒット”の方程式
──そして今、注目を集めているのがアソビシステムのアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」(FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE、SWEET STEADY、CUTIE STREET、MORE STAR)の大躍進です。発足当時の2022年2月はコロナ禍でした。アイドルビジネスでは定番となっていた接触イベントも難しいタイミングでしたが、どういったビジョンを描かれていたのでしょうか。
【中川】緊急事態宣言で原宿もシャッターが閉まり、人がまったくいない状況があって。そんな中、コンビニかどこかでK-POPが流れてきたんですよね。K-POPのすごい勢いを感じる一方で、何十億もかけて長い時間育成しデビューさせるという形を今から真似しても勝てないと思いました。そこでふと、「自分たちがやるんだったら、“カワイイ”ジャパニーズアイドルじゃないか」と思ったんです。同時に、その当時はスタッフやタレントのメンタルが落ちていたり、いろいろ大変なことがあって、このままじゃまずいなと思った瞬間でもあって。まずは動かないと始まらないと思って、いろんな人に連絡して、「盛り上がっていくんじゃないか」と妄想しながら、とにかくスタートしました。
──実際、最初に誕生したFRUITS ZIPPERを筆頭に、SNSをきっかけにバズり、今やアイドルシーンの一大勢力となりましたが、SNSの活用方法や取り組みに関してはどのように考えられていたのでしょうか。
【中川】SNSって日常だと思っているんですよ。おいしかったもの、楽しかったこと、今自分が好きなことを表現する場として、SNSがあると思っていて。そこからスタートする熱量みたいなものは確実にあるし、今も変わらず続いているので、SNSはタレントたちの日常のルーティンワークとしてあるものだと思っていますね。
──個々としての発信もありつつ、ひとつの楽曲をダンス動画やライブ動画を通して何度も発信し続けるという方法も印象的です。
【中川】システマチックに考えたわけではなくて、“味変”として「いろんな動画があったほうがいいよね」ということで。ソーシャル上に同じ動画ばっかりだと飽きるから、衣装や景色が変わったり、いろんな動画を混ぜていって、その変化があることで上質なコンテンツになっていくことがすごく大事だと思っています。
──バズって終わるのではなく、そこから継続的なヒットやライブの集客につながったのにはどんな理由があると考えていますか?
【中川】日々コツコツやってきたことが大きいと思います。ライブをやっていることによってできたファンダムと、ソーシャルでバズってできたファンダムって別なので、ライブ活動でファンを増やしていく、SNSでファンを増やしていく、その両方を大きくしていく発想とバランスの結果かと思っていますね。そしてメディアに出て露出して、認知を定番化していく。反応と同時に動いているからできていることなのかなと思っています。
そして、一度成功すると、その成功体験が一番の邪魔になると思っていて。同じことは二度三度と成功しないと思っていますし、同じフォーマットや同じことをやり続けることには限界があります。社員それぞれがプロデューサーとして、自分たちをアップデートして“味変”していかないとヒットは出し続けられないと思っているので、そこは常に意識しています。
■アイドルの“前世”もリスペクト アソビシステム流プロデュース
──「KAWAII LAB.」や新プロジェクト「PEAK SPOT」(fav me、Toi Toi Toi、log you)に所属するアイドルは、過去に別のグループで活動していたいわゆる“前世持ち“と呼ばれるメンバーも多くいますよね。例えば、複数のアイドルグループで活動歴のあるFRUITS ZIPPERの櫻井優衣さんは、2024年にグループとしては2周年でありながらアイドル活動10周年を迎え、記念イベントを開催したことも話題になりました。過去を隠したり封印したりするアイドルもいる中で異例のイベントだったのではないかと思います。
【中川】去年はCANDY TUNEの村川緋杏(元HKT48)も10周年イベントをやったんですけど、僕らはその“前世”にもリスペクトがあって、だから今があると思っているんです。過去も含めての人生なので、嘘をついてもしょうがないし、隠してもしょうがない。それに今って、本人たちのアイデンティティに共鳴して作り出すものがトレンドになっていて。だからこそ過去を否定はしちゃいけないし、成長してきた過程もタレントの人生だと思っています。
――それこそ「PEAK SPOT」は、これまでに芸能活動を経験したメンバーが集い、新たな可能性を追求するプロジェクトです。オーディション以外ではどのように出会って、どのような部分を重視して契約されているのでしょうか。
【中川】紹介もありますし、SNSのDM経由もあります。一番大事なのはタレントも社員も同じで、やはり“人”ですね。何がなくなったとしても、人さえいればやっていけると思っているので。
──アイドルプロジェクトが拡張し、次世代メンバーの育成も手がけられています。所属タレントとのコミュニケーションはどうされているのですか。
【中川】何気ないことも含めてよく話しますよ。タレントとの距離感は近いと思います。やっぱりエンターテインメントって、タレントにモチベーションがあって、本人たちが楽しいと思うことが一番大切かなと思っていて。そういう面で言うと、本人たちの喜びや悲しみといった感情的な部分はちゃんと把握しておきたいんです。ひとつのチームとしてそう考えていますね。
■きゃりーぱみゅぱみゅからKAWAII LAB.まで 見えない共通言語
──きゃりーぱみゅぱみゅさんやKAWAII LAB.の活動、発信において、「カワイイ」が重要なキーワードになっていますが、「カワイイ」の感覚や受け入れられ方には変化があると思われますか?
【中川】アソビシステムには「原宿」「カワイイ」というキーワードがあって、両方変化はあるんですけど、ちゃんと継承されつつ変わっていっているイメージがありますね。まったく別のものになるのではなくて、少しずつ時代に合わせて変わっている感覚があります。
例えば、きゃりーのファンでKAWAII LAB.のライブも観に来てくれるアソビシステムのファンみたいな方がいて、見えない共通言語があるのかなと思うんです。うちには「カワイイ」の文脈ではないアーティストもタレントもイラストレーターもいますが、それがアソビシステムという1つの傘の形で見えているのかなと思います。「アソビシステム」という言葉が「原宿」や「カワイイ」にどこかでつながって、一気通貫しているのが自分たちの特徴かなと。LVMHのように複数のブランドを抱える形で、きゃりーがいて、リーダーズがいて、FRUITS ZIPPERがいて、という構造をつくりながら、アソビシステムという事務所自体をブランドとして確立していきたいという考えもありますね。
──マネジメントにおいて、今後の構想や理想の形をお聞かせください。
【中川】今後、さまざまな他の領域のマネジメントにもチャレンジしてみたいと考えています。そしてバーチャル領域とメンズ領域、グローバルな展開も意識していきたいです。
■海外進出の先駆者が見たジャパンカルチャー現在地
──アソビシステムは、アーティストやカルチャーの海外進出、発信の先駆者でもあります。2023年にはCEIPA(一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会)が設立され、2025年に「MUSIC AWARDS JAPAN」が初開催されるなど、オールジャパンでの海外進出、発信の取り組みが本格化しています。こうした動きを先駆者でもある中川さんはどう見られていますか。
【中川】めちゃくちゃポジティブだと思っています。僕は創業初期から海外に行く意味、大切さを感じていましたし、きゃりーや「MOSHI MOSHI NIPPON」というプロジェクトを立ち上げ、自分たちなりに“オールジャパン”みたいなものを作りたいと構想して実行にも移してきましたが、力及ばず失敗もしたし、いろんな壁にもぶち当たりました。その中でこの団体ができたことによって、業界の垣根を超えていけることがすごく魅力的ですし、去年「MUSIC AWARDS JAPAN」が京都で開催されて、日本の音楽の素晴らしさやパワーを世界にアピールできたんじゃないかなと思っていますし、今年は東京で開催されるということで、可能性しかないんじゃないかなと素直に思っていますね。
──中川さんは経済産業省の有識者会議「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」の専門委員でもあり、2024年12月には「ジャパンクリエイティブの世界展開と未来への課題」という政府への提言をプレゼンされています。
【中川】実体験を基に、ビザの取得や費用問題、現地活動の拠点不足や現地とのコネクション不足など、海外進出を阻む諸課題の解決策を提言してから1年余りになりますが、最近では日本全体でコンテンツ産業やエンターテイメントにポジティブな目が向いてきていることをひしひしと感じています。政府はエンタメ・クリエイティブ産業の海外売上高5兆円を2033年までに20兆円にしようという目標を掲げていますし、それによって、これまで単発でしか実現できなかったものも継続的にできつつあると思います。個人的には「クールジャパン官民連携プラットフォーム」のメンバーになったのが10年以上前なんですが、自分がプレイヤーである間にこうした進化があることがすごくうれしいですね。
──国も言語も関係なく、さまざまなカルチャーを楽しめる時代になりつつありますが、中川さんが考えるジャパンカルチャー、コンテンツの強みを教えてください。
【中川】音楽、アニメ、ゲーム、美容師、ネイリスト、料理人、どのジャンルでも、日本のコンテンツには特異性があります。日本が世界に向き合っていく上で強みになるのはクリエイティビティだと思っていて、日本人の手先の器用さとか、日本人が持っているアイデアの繊細さが世界に響くんじゃないかなと。音楽でもJ-POP、ロック、ヒップホップ、アニソン、バーチャルなどいろんなジャンルがありますし、音楽の作り方の繊細さとか、ライブの演出なども含めてやっぱり日本ってすごい。コロナ禍を経てサブスクの普及が加速して、同じものが好きな世界中の人たちがつながれる時代になってきたので、日本の音楽にとっていろんなところにチャンスがあると思います。音楽に限らず、アニメから入る日本、ラーメンから入る日本、寿司から入る日本、家電から入る日本、入口がいっぱい増えてきたなと思いますね。
──アソビシステムとしての、グローバル展開の展望はいかがでしょうか。
【中川】アーティストのグローバル活動やライブは続けていきますが、もっと現地に根付いていくようなことをしていきたいと思っています。どこで、いつからということは決まっていませんが、世界各地に拠点を作っていきたいと思っています。
──2027年の創業20周年に向けて、2026年に注力されることやビジョンをお聞かせください。
【中川】きゃりーぱみゅぱみゅのデビュー15周年が一番大きな意味を持ちます。出産を経て復帰して、日本のポップアイコンの代表として居続けることも大切だし、新しい道を作っていくことも大切だと思っています。会社としては日本のエンターテイメント業界の中で自分たちがやるべきことをもっと考えて実行していきたいと思っていますし、20周年に向けてやりたいこともあるので、そこに向かって進んでいきます。
──節目の年を前に、達成感や感慨深さを感じることもあるのではないかと思います。続々と次の一手を打ち、事業を拡大されていく原動力はどこにあるのでしょうか。
【中川】やっぱりこの仕事が好きだし、夢のある仕事だと思っています。そして、ゴールがないからこそ、それが一番の原動力になっているんだと思います。今でこそスタートアップ企業が多いですけど、20年前はその言葉自体あまり使われていませんでした。20年続いたのは自分としてもすごいと思いますね。企業なのかそうじゃないのかもわからない、個人事業主の延長線だったものが会社になって、今では100人を超える社員がいて、多様なタレントがいて、その過程自体がすごくエモーショナルでうれしいことだと思っています。
取材・文/東海林その子
撮影/田中達晃(Pash)
■中川悠介(なかがわ・ゆうすけ)氏
アソビシステム株式会社 代表取締役社長
1981年、東京生まれ。東洋大学経営学部マーケティング学科卒業。
大学在学中より音楽イベントやファッションショーなどさまざまなイベントを主催し、2007年にアソビシステム株式会社を設立。“青文字系カルチャー”の生みの親として日本独自の文化である「HARAJUKU CULTURE」に焦点を当て、原宿を拠点にタレントマネジメント、イベントプロデュース、店舗事業などを幅広く展開。日本のポップカルチャーを世界へ発信するプロジェクトを多数手がける。
内閣官房「クールジャパン官民連携プラットフォーム」構成員
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