名古屋出入国在留管理局の施設で3月、収容中に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの生前の様子を収めた監視カメラの映像開示を巡り、遺族らが入管当局の対応に不信感を募らせている。5月に来日し、8月にようやく閲覧が認められた。しかし途中でショックのあまり、中断。その後、閲覧は全く進んでいない。

 遺族側は閲覧に弁護士を立ち会わせるよう求めているが、入管側は認めようとせず、両者の協議が膠着(こうちゃく)状態に陥っているためだ。入管側は保安上の問題などを理由に挙げるものの、映像はウィシュマさんの居室内に限られ、施設の警備情報などが外に漏れるとも思えない。遺族による訴訟を警戒してのことだろう。

 異国の地で肉親に何が起きたのか、どんな問題があったのかなど状況を知りたい遺族が弁護士を頼りにするのは当然のことで、入管側はまず、弁護士立ち会いに応じるべきだ。さらに遺族の閲覧用に編集した約2時間の映像と、元になった2週間分の全量を国会に提出し、検証と議論に付すことが求められる。

 出入国在留管理庁は先月、職員の危機意識や医療体制などに問題があったとする調査報告書を公表し、全職員に意識改革を求めた。しかしウィシュマさんの処遇についての情報がまだ十分でない上、遺族への対応からは、本当に改革する気があるのかと疑問が湧く。

 遺族はウィシュマさんの妹2人。1人は映像の一部しか閲覧できず帰国したが、その前に記者会見して「入管側の不誠実な対応に大きなストレスを感じている」「姉の苦しむ姿や入管職員のひどい態度を毎日思い出し、ショックを受けている」などと述べた。もう1人は残り、引き続き開示を求めていくという。

 2人が目にした映像では、ベッドから床に落ちたウィシュマさんが泣きながら「助けて」と訴えても、職員が「できない」としばらく放置。体調不良でカフェオレを鼻から噴き出した時には「鼻から牛乳や」と、からかうような発言をした。

 発言は亡くなる5日前のことだ。報告書は「不適切」とした。ただ、その一方で「同僚の気持ちを軽くし、本人にもフレンドリーに接したいなどの思いから軽口をたたいた」という職員の説明も載せている。こんな言い訳が通用すると考えているとしたら、深刻な事態と言わざるを得ない。

 遺族はウィシュマさんに関する行政文書の開示も請求。職員の勤務日誌など約1万5千ページが開示されたが、タイトルや決裁印以外はほぼ全て黒塗りだった。情報開示に後ろ向きな入管当局の姿勢が表れている。

 日弁連によると、2007年以降、ウィシュマさんも含め入管施設で収容者が少なくとも16人死亡した。茨城県の東日本入国管理センターで14年に死亡したカメルーン人男性の遺族は、体調不良を訴えたのに放置されたと国などに損害賠償を求める訴訟を起こしている。職員から暴行を受けたり、手錠をされたまま放置されたりしたといった訴えも後を絶たない。

 外国人収容を巡っては、国際社会で「人権侵害」などの批判がやまず、入管当局は今回、職員の意識改革などに取り組むことを強調した。とはいえ、ウィシュマさんの遺族に説明責任を果たさなければ、改革も絵に描いた餅に終わるだろう。