ワクチン未接種者への差別禁止を規定した条例のある自治体
ワクチン未接種者への差別禁止を規定した条例のある自治体
自治体の窓口などに寄せられた相談事例
自治体の窓口などに寄せられた相談事例
新型コロナウイルスワクチンに関する福井県の新聞広告。未接種者への差別をしないように呼び掛けている
新型コロナウイルスワクチンに関する福井県の新聞広告。未接種者への差別をしないように呼び掛けている
ワクチン未接種者への差別禁止を規定した条例のある自治体 自治体の窓口などに寄せられた相談事例 新型コロナウイルスワクチンに関する福井県の新聞広告。未接種者への差別をしないように呼び掛けている

 新型コロナウイルスワクチンを巡り、石川や長野、高知など8県が条例で未接種者への差別を禁止していることが3日、共同通信のアンケートで分かった。27道府県は、国がさらに対策を進める必要があるとし、「どのような行為が差別に当たるのかをより具体的に示してほしい」などと要望した。

 政府は9月、接種を入学や雇用の条件にすることなどは差別に当たるとする「基本的な考え方」を公表した。しかし、厚生労働省によると未接種者への差別禁止を明確にした法律はない。

 政府は今秋以降、ワクチンを2回接種したか、検査陰性のいずれかを示す証明書があれば行動制限緩和の対象とする「ワクチン・検査パッケージ」を活用する方針。ワクチンが経済再生の柱となり、未接種者が通常の社会生活を送りづらくなる懸念が出る中、具体性に欠ける国の指針に引っ張られる形で、自治体の差別対策も不完全なままとなっている現状が浮き彫りとなった格好だ。

 共同通信は9月末、全国47都道府県を対象にワクチン未接種者への差別対策について担当課から主に文書で回答を得た。

 条例で未接種者への差別を禁止している8県は、石川、長野、岐阜、三重、和歌山、鳥取、徳島、高知。高知だけが条例に未接種者を明示し、7県は、感染防止策を講じていない人などへの差別を禁じた規定の対象に、未接種者も含まれるとの見解で対応していると説明。いずれも罰則はない。

 高知は7月、新型コロナ感染対策を定めた条例を施行。この中に「予防接種を受けていないこと」を理由とする差別禁止を盛り込んだ。「差別対策に県と県民が一致団結して取り組む」とのメッセージを明確にする必要があると判断した。

 2月に施行された新型コロナ対応の改正特別措置法が、差別対策は国と自治体の責務と規定したことを受け、新潟は人権に関する「基本指針」を改定。これに基づき未接種者への差別対策を進めているとした。条例や指針がない都道府県の多くも、広報誌などで啓発を行っていると説明した。

 市町村では栃木県那須塩原市などが未接種者差別を条例で禁じている。

 

職場や学校 被害相談多数

 47都道府県を対象に共同通信が実施したアンケートで浮かび上がったのは、新型コロナウイルスワクチン未接種者への差別対策に法的根拠がない現状だ。差別禁止を明確にうたった法律はなく、条例で未接種者に言及しているのも高知だけ。差別被害に関する相談は各自治体の窓口などに数多く寄せられており、有識者からは「法律や条例に基づく周知が欠かせない」「抑止力になる」などの意見が上がった。

▼同調圧力生む

 「就職を希望する会社に『ワクチンを打たないと雇わない』と言われた」「接種しないと首にすると告げられた」

 医療従事者や高齢者へのワクチン接種が始まった今春以降、鳥取県人権・同和対策課の相談窓口には、こうした差別被害を訴える声が相次いで寄せられているという。同課の担当者は「届いている声は氷山の一角。把握できていない事例も多いだろう」と懸念する。

 愛知県犬山市では、市内の二つの中学校で教諭が生徒に接種の有無を挙手させて確認していたことが判明。市教委が「同調圧力を生む恐れがあり、差別につながりかねない不適切な行為だ」と謝罪する事態に発展した。同様の事例は他の地域でも多数発覚した。

▼想定していない

 2月に施行された新型コロナ対応の改正特別措置法は、差別対策を国と自治体の責務と規定した。しかし、対象は感染者などで、内閣官房の担当者は「ワクチン未接種者は想定していない」。

 接種歴を証明する「ワクチンパスポート」に関する議論が活発化する中、政府は9月、接種を雇用や入学の条件にすることなどは差別に当たるとする「基本的な考え方」を決定。しかし、「民間では誰にどんなサービスを提供するかは原則自由」とも明記され、ベクトルがパスポート活用に向いているのは明らかだ。

▼自治体に限界

 武蔵野美術大の志田陽子教授(憲法)は「自粛警察に象徴されるように日本では同調圧力が働きやすく、その背景にある社会の不安を和らげるには政府や自治体がその都度『やってはいけない』と言ったり、情報提供を行ったりすることが重要だ」と指摘。法律や条例に禁止事項を明記しておけば、問題行為だと指摘しやすくなり、有効性が高まると強調した。

 志田氏は、未接種者への差別禁止を明示した高知県の条例に、罰則がない点に注目。「憲法の思想・良心の自由や表現の自由を封じる恐れはない」とし、啓発や被害者支援に重点を置いている点を高く評価した。

 一方、自治体による対策には限界があるとの意見も。元厚生労働官僚の中野雅至神戸学院大教授(行政学)は「未接種者への差別は全国どこでも起こり得る問題だ。基準が曖昧なままばらばらに条例を作るより、事例をよく検討した上で国が法整備を行う方が望ましい」と指摘した。