「財政赤字が膨らむのは、みんな自分の懐とは関係ないと思っているから。政府が無駄遣いしても、しょせん他人のオカネと思っている」―。こう指摘したのは、1986年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ブキャナン氏。政治家が国民に選ばれている限り、大盤振る舞いの誘惑に駆られて財政は赤字になる、と民主主義の「持病」のようなものを説いた▼財政危機を叫び続けて「オオカミ少年」とまで呼ばれるようになった財務省。その事務方トップの矢野康治財務事務次官が、衆院選をにらんだ与野党のバラマキ合戦に「もう黙っていられない。このままでは日本は沈没する」と月刊誌に寄稿し、波紋を広げた▼政治家による報復人事を恐れて、言いたいことも言えなくなった官僚の萎縮を自省しつつも、「やむにやまれぬ大和魂」を抑えきれなかったという▼給付、減税、無料…。各党の衆院選公約には口当たりの良いメニューが並ぶ。コロナ禍の傷を癒やし、感染再拡大を防ぐためとはいえ、「国民全てが給付を求めているわけではない」と矢野氏は使い道に規律を訴える▼公約メニューのお代は大半が借金頼み。国の借金は、国内総生産(GDP)の2・3倍に相当する1200兆円超に上ると聞かされても、「オオカミ少年が言っていることだから」と多くの人は受け流すかもしれない。民主主義の持病が重症化するのが怖い。(前)