焼き菓子販売の「小さなおやつ工房 ここから」=松江市南平台
焼き菓子販売の「小さなおやつ工房 ここから」=松江市南平台

 素材にこだわった「心身にやさしい」食べ物を新人記者2人が紹介する「はるかほのやさしいお店巡り」。第3回は松江市南平台、焼き菓子販売「小さなおやつ工房 ここから」を紹介する。(Sデジ編集部・宍道香穂)


 閑静な住宅街の坂を登ると、店が見えてくる。温かみのある木製の看板に「小さなおやつ工房 ここから」の文字。神社の社務所をイメージした和風の販売スペースで、着物姿の店主・大野恵里子さん(34)が出迎えてくれた。

 

▷看板商品のグラノーラ 食べてみた
 店の看板商品は「読むグラノーラ」(各100グラム、税込680円)。食物繊維が豊富な有機オーツ麦を使用し、一番人気の「メープル」をはじめ、「きなこ」「ココア」「緑茶」「カレー」の5品を展開している。有機オーツ麦と国産小麦、ゴマ油でベースを作り、レーズンやアーモンドなどの具材を混ぜて焼き、一口大に砕く。パッケージには、原材料の生産地やそれぞれのグラノーラに込めた思いをつづったカードが付いている。

 メープル、緑茶、カレーの3つを購入し、食べてみた。一番人気のメープルは、砂糖を使用せず、メープルシロップのみで甘みをつけている。メープルの香りとアーモンドの香ばしさを十分に感じられて、おいしい。ほんのりと塩が効いていて、ほどよい甘じょっぱさが癖になりそうだ。

 緑茶のグラノーラはレーズン、アーモンドに加え、北海道産の黒豆が入っている。和風のグラノーラに、甘い黒豆がぴったりと合っている。大野さんは「和風のおやつというと抹茶味が一般的ですが、緑茶を使用することで、抹茶と比べてさっぱりとした爽やかな味にしています」と話す。確かに、濃厚な抹茶味のお菓子と比べて、あっさりとした甘みで食べやすい。

 カレーのグラノーラには、雲南市産のトマトをドライトマトにして混ぜている。そのままでもおいしく食べられるが、大野さんは「サラダに混ぜるとおいしいです」と教えてくれた。サラダにグラノーラとオリーブオイルをかけ、よく絡めて食べるとおいしいという。まるでテレビや雑誌で紹介される、おしゃれなレストランのメニューのよう。これで、最近の悩みだった野菜不足を解消でき、食物繊維もしっかり摂取できそうだ。

看板商品の「読むグラノーラ」。左からメープル、緑茶、カレー。

▷「おやつは補食でもある」 栄養面でのこだわり 
 グラノーラを作り始めた理由は「補食にぴったりだから」と大野さん。おやつを単なる嗜好品としてではなく、足りない栄養を補うものとして考え、栄養価が高くおなかも満たせるグラノーラを選んだ。
 「体は食べたものでできている」と、なるべく体に良いものを作るよう心掛けている。国産小麦の小麦粉をはじめ、食物繊維たっぷりの有機オーツ麦やドライフルーツ、ミネラルが豊富なナッツなど使用する食材に気を配る。産地にもこだわり、地産地消をモットーに緑茶葉やトマト、卵、米など島根県産の食材を積極的に取り入れている。

 グラノーラといえば、牛乳をかけたりヨーグルトと混ぜたりして食べるサラサラの状態をイメージしていたが、「ここから」のグラノーラは一口サイズのゴロゴロとした塊なのが特徴。大野さんによると、牛乳やヨーグルトに混ぜるのではなく、そのまま食べるのがお薦め。市販のグラノーラは牛乳などに混ぜることを想定して十分な甘さをつけているが、大野さんのグラノーラは甘さを控えめにしているため、そのまま食べるほうがおいしいという。「つまみやすいサイズにしているので、小腹がすいた時に、おやつ感覚で食べてもらえたら」と大野さん。手軽に食物繊維を摂れるうえ、甘さ控えめ。罪悪感なく食べられそうでうれしい。

▷マフィンやスコーン、クッキーも
 店頭にはグラノーラのほかにもマフィン(300~350円)やスコーン(200~250円)、ビスケット(150~250円)、クッキー(220~250円)といった焼き菓子が並ぶ。どれも甘さ控えめで、おやつとしてはもちろん、朝食にもぴったりだ。大野さんは「食事の代わりとしても食べやすいよう、甘さを控えめにしています。おやつというと、スイーツなど甘いものをイメージしがちですが、必ずしも甘いものでなくても良いと思うのです」と話す。

 冒頭の動画内で大野さんが作っている「ごまクッキー」(3本入り、220円)は、白ゴマ、黒ゴマに加え、「太白(たいはく)胡麻油」を使用。ゴマ油特有の香りが少なく、製菓に適している。バターの代わりに使うことで、こってりとした重さがなくなり、サクッとした軽い食感に仕上げることができる。食べてみると、ほどよく塩が効いていて、ゴマの香ばしさと相性抜群。甘いお菓子が苦手な人も、これならおいしく食べられそうだ。

販売する「ごまクッキー」を準備する店主の大野さん

▷「おやつを食べられてうれしい」 娘からの言葉
 大野さんは保育士として岡山県で勤務していたが、昨年8月に地元島根へUターンし、店を開いた。おやつ作りを始めたきっかけは、娘さんのアトピー性皮膚炎。化学物質にアレルギー反応が出る娘さんは、添加物が多く含まれる市販のおやつを食べると発疹が出てしまう。子どもにとって大きな楽しみの「おやつ」を我慢しなくてはならなかった。娘のために何かできることはないかと、おやつ作りを始めた。大野さんは「それまで食べるのを我慢させていたため、おやつを食べられることがうれしいと喜んでくれました。緑茶のグラノーラがお気に入りのようです」とうれしそうに話した。

▷アレルギー対応の商品開発に試行錯誤
 アレルギーのある人が多いバター、牛乳、卵などをなるべく使わないようにするのは大変だった。大野さんは「アレルギー対応のお菓子はどうしても、おいしくないものが多いと聞いていました。おいしさを保ちつつ、ほかの材料で代用するのが大変で、試行錯誤の連続でした」と振り返る。例えばクッキーを作る際、バターの代わりに植物性油を入れることにしたものの、最適な量を見つけるまで、作っては食べての繰り返しだった。油が少なすぎるとコクがなくなり、多すぎるとこってりとしてしまう。「自分がおいしいと感じられるものを販売したいので、納得がいくまで試しました」と話す大野さん。可愛らしい笑顔の裏に「納得いくものを作りたい」という情熱を感じた。

 当初は販売を考えていなかったが、娘のようにアレルギーに悩まされている人の力になりたいと、2018年ごろからイベントに出店し、おやつを販売するようになった。新型コロナウイルス禍でイベント中止が続き、昨年8月に島根へUターン。自宅ガレージを改装し、11月に店を開いた。現在は月一回の自宅での販売に加え、イベント出店も行っている。毎月の営業予定はインスタグラムで確認できる。
 「心と体にやさしいおやつを」、「おやつをきっかけに、自分が口に入れるものについて“ここから”考えてみてほしい」との思いを込め、「ここから」と店名をつけた。

かわいらしい笑顔が印象的な大野さん

 情報発信は主にインスタグラムの投稿のみだったが、口コミで話題が広がり、近隣からだけでなく島根県西部や鳥取県、山陽地方からも客が訪れる。大野さんは「『ここのおやつはどれも安心して食べられる』『以前はグラノーラが苦手だったが、ここのグラノーラを食べてから好きになった』といったコメントをいただくこともあり、励みになります。おやつを楽しみながら、普段口にする食べ物について考えてもらえたらうれしいです」と話した。食べる人の身体をいたわる「やさしいおやつ」を提供するため、手間を惜しまずこだわり抜く大野さん。娘さんや店を訪れる客のために、素材にこだわって作られるおやつに大きな愛情を感じ、心がほっと温まった。