魚介加工品店「to loved ones(トゥー ラブド ワンズ)」=松江市西茶町
魚介加工品店「to loved ones(トゥー ラブド ワンズ)」=松江市西茶町

 素材にこだわった「心身にやさしい」食べ物を新人記者2人が紹介する「はるかほのやさしいお店巡り」。第2回は魚介加工品を製造・販売する松江市西茶町の「to loved ones(トゥーラブドワンズ)」を紹介する。(Sデジ編集部・宍道香穂)

 

 店名の横に魚のイラストが描かれたシンプルな看板と、店内はすっきりとした清潔感のある内装。穏やかで優しい雰囲気の店主・小松原大志さん(44)がカウンターに立ち、心地良く、落ち着く店内だ。

 カウンターに設置された黒板には、メニューが書かれている。看板商品のしめさば(760円~1,190円)をはじめ、魚のソーセージ(650円、スライス480円)、揚げかまぼこ(430~970円)、スルメイカの塩辛(480円)などを購入できる。店内にはイートインコーナーもあり、ピタパンサンド(500円)やスープ(300円)もある。

イートイン用のメニュー。ドリンクも用意している。

▷いざ、実食
 ピタパンサンドには季節の魚が入っていて、この日の具材はメダイのソテー。食べやすいようほぐされたソテーがたっぷりと入っていてうれしい。レタスとスクランブルエッグとの相性も抜群だ。具材となる魚は日替わりで、メダイのほかにはマイワシやサバなど、その日用意ができる魚を入れている。スープもうま味たっぷりでおいしい。鰹節と煮干しでだしをとったスープに、刻んだタマネギとシイタケが入っていて、優しい味にほっこりした。

メダイのソテーが入ったピタサンド(左)とスープ

 看板商品のしめさばも食べてみた。外側は酢でしっかりと締められ、内側は生のサバに近い「半レア」なのが特徴。生臭さはまったくない。刺身と酢締め、両方の食感を楽しむことができ、サバのうま味も味わえる。1匹分を2人でぺろりと平らげてしまった。

看板商品のしめさば。炙り(手前)と生(奥)の2種類から選べる。

▷客からの「共感」が励みに
 季節の魚を使用したソーセージも人気だ。魚と藻塩、黒コショウのみを使用し、シンプルだからこそ魚のうま味を存分に感じられる。現在販売しているのは「エソのソーセージ」で、ほかにも、ウルメイワシやトビウオ、サワラ、アジなど、日によってさまざまな魚を使用する。

 購入した人からは「余計なものが入っていなくて、安心して食べられるのがうれしい」「こういうのが食べたかった」といった声が届く。また、会員制交流サイト(SNS)上では、商品の写真を載せてくれる人や感想のコメントをくれる人から力をもらっているという。小松原さんは「自分が良いと思うものを提供して、それに共感してもらえるのがうれしい」と話した。

▷「魚は鮮度が命」覆す処理法
 「大切な人に自信をもって勧められるものを」と、使用する食材の安全性を追求したり、それぞれの魚の良さを引き出す調理法を用いたりと、商品の細部にまでこだわりが見られる。

 中でもこだわっているのは、魚を処理する際の「血抜き」。生きた魚の場合、心臓がポンプの役割を果たすため血抜きが簡単だが、死んだ魚は心臓が動いていないため、血が残りやすく、食べた時の生臭さの原因になる。

 良い方法がないかと悩んでいた時、動画サイトで、料理人の津本光弘さんが考案した「津本式血抜き法」を知った。魚のえらと尾の部分を切り、えらの切り込みからホースで水を流すと、身体の中心に伸びている血管を通り、尾の切断部から血が流れ出る。その後、頭を下にするように置いておくと、口から血が出てきて、10~20分で血抜きが完了する。
 「動画や本で勉強して自宅で試してみたら、生臭さがぐんと少なくなり、驚きました。日持ちも長くなるし、これは良い処理法だと、さっそく採り入れました」。

仕入れた魚を処理する小松原さん

 小松原さんは「魚は鮮度が命と言われがちですが、処理方法に気を配ることで、おいしく長く保存することができます。古くなったから捨てるといったこともなくなり、食品ロス削減にもつながります」と話す。保存料やうま味調味料を使わず、よりおいしく、無駄なく味わう方法を追求する。

▷「こんな人になりたい」尊敬する人物との修業時代
 昨年2月、勤めていた食品メーカーを退職し、奥出雲町下横田のショッピングセンター「横田蔵市」の鮮魚コーナーで8カ月間、修業した。魚のおろし方や魚種ごとの味の特徴、適した調理法を学び、「体力的にはきつかったけど、楽しかった」と振り返る。

 中でも社長との出会いは、今までの自分を変えるきっかけになった。「社長が誰よりも率先して働いていたことが衝撃でした」。毎朝3時に起き、4トントラックを運転して松江市内で魚を買い付け、午前7時には横田へ戻り業務―という社長の仕事ぶりを間近で見た。小松原さんは「お客さんを喜ばせることを第一に考え、真摯(しんし)に向き合う姿勢を見て、こんな人になりたいと強く感じました」と話す。

 魚について学べたことはもちろん、心から尊敬できる人と出会えたことが何よりの財産だと振り返る。修業を終え、4月に店をオープンした後も交流があり、社長からはサプライズで鮮魚の詰め合わせが届くこともあるという。

▷一度きりの人生 後悔したくない
 独立を決意した当時は「好きなことでうまくいく人なんて限られているし、やめといたら」「失敗するかもしれないよ」と、店を開くことを止めようとする人も少なくなかったという。
小松原さんは「良かれと思って言う人もいれば、悪意から言っているのだろうなと感じる人もいました」と振り返る。それでも「一度きりの人生、後悔したくない」と、開店準備に取り組んだ。

看板商品のしめさばを持つ店主の小松原さん

▷常に挑戦・向上を 尽きないアイデア
 「新メニューとしておでんを出してみたい」と話していた小松原さん。後日、お店に足を運び、ふとメニューボードを見ると「おでん」の文字。小松原さんは「ついに始めました」とうれしそう。

 季節の魚の練り物に大根、卵、こんにゃくが加わった4品を1セットで販売している(600円+箱代100円)。おでんのタコが好きだと話すと「僕も好きですよ。メニューに追加しようかな」と小松原さん。「朝食として魚の定食も提供してみたいし、それぞれの魚に合うお酒とのセット販売もしてみたい。まだまだやりたいことがたくさんあります」と仕事への思いがあふれ出る。

 物腰は柔らいかながらも、仕事に取り組む姿勢には強い芯があるのを感じた。常に新しいアイデアを形にし、わくわくした様子で仕事に向き合う姿を見て、今後のメニュー展開がますます楽しみになった。