米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い昨春踏み切った金融緩和策の縮小を決めた。米国の景気回復と物価上昇が背景にあるが、金利の上昇とドル高を通じて新興国をはじめ経済力の弱い国々への負の影響が懸念される。FRBには政策運営に当たって丁寧な目配りを求めたい。
FRBは昨年3月、コロナによる景気悪化と株安など市場の動揺を受けて、事実上のゼロ金利政策と国債などを購入する量的緩和策を導入した。
今回はその量的緩和について、合計で月1200億ドル(約13兆7千億円)の米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の購入規模を月150億ドルずつ減らすことを決めた。
両者は長期金利や住宅ローン金利の低下を通じて景気を刺激する狙いがあっただけに、その縮小はコロナ禍からの米国の復活を示していよう。
ただし、パウエルFRB議長が「利上げのときではない」と強調するように、今回の決定が直ちにゼロ金利の解除や金利引き上げに結び付くものではない。FRBは量的緩和の縮小を段階的に進め2022年半ばごろに完了。その後、同年中のゼロ金利解除を念頭に置いているためだ。
FRBは金融危機後の緩和縮小を巡って13年、金融市場との意思疎通がうまくいかず混乱を招いた苦い経験がある。その轍(てつ)を踏まないためには市場や各国の政策当局者と円滑にコミュニケーションを取り、緩和縮小の道筋をできるだけ明らかにしていくべきだ。
政策転換の背景となった米国経済の復調は、ワクチン接種の広がりもあって今年4~6月期の国内総生産(GDP)がコロナ前の水準へ回復。雇用は拡大が続く。
それ以上にFRBの背中を押したのがインフレ圧力の高まりである。需要増による半導体不足をはじめ、原油などエネルギー価格の高騰、物流の逼迫(ひっぱく)、人手不足が重なり9月の消費者物価は前年同月に比べ5・4%も上昇。当面収まる気配が見えないからだ。
物価圧力が今後も衰えなければ米景気の足を引っ張るだけでなく、FRBの緩和縮小と利上げが早まる可能性がある。
米国の金利上昇とそれに伴うドル高は、他方で新興国などの通貨安と資金流出につながり、影響は日本をはじめ世界に及ぶ。FRBの目配りは当然として、日本も警戒を怠れない。
コロナからの経済回復と物価上昇を背景に、米国以外の金融政策も転換点を迎えている。
韓国、ノルウェー、ニュージーランドなどは利上げを実施。欧州中央銀行(ECB)はコロナ対策で導入した追加の量的緩和について12月の次回理事会で継続の是非を議論する見通しだ。
インフレ圧力は日本へも波及し、9月の消費者物価(生鮮食品を除く)は1年半ぶりに前年同月を上回り、企業物価は6・3%の上昇と13年ぶりの水準を記録した。一方で円安ドル高気味となっており、このままでは原油や穀物などの輸入コスト増により「悪い物価上昇」が広がる恐れがある。
物価目標の2%にはなお遠く、日銀の金融緩和姿勢に変化はない。だがワクチンによる感染減でようやく経済が動き始めた時期だけに、消費や企業収益へのダメージを注意深く見ていくべきだ。