新型コロナウイルス対策を争点とした衆院選は自民、公明の与党が絶対安定多数を確保した。コロナとの闘いに2年近く苦しんできたが、ワクチン2回接種を終えた人が人口の7割を超えて「第5波」が急速に下火になった現状が、「失政」を責めた野党より与党を後押ししたとも言える。
しかし発足後すぐ衆院を解散した岸田文雄政権はここが実質的スタートだ。観光支援事業「Go To トラベル」再開を検討するが、冬に「第6波」の可能性があり安心は禁物だ。予防、発見から早期治療につなぐ検査・医療体制の強化を早急に実行してほしい。
一部地域ではクラスター(感染者集団)が発生し、専門家は「感染者数の減少速度鈍化や下げ止まりが懸念される」と言う。ウイルスは消えずに変異を続けており、今は小康状態にすぎない。寒くなると人は換気不十分な室内で過ごし、密になりやすい。秋の行楽シーズンから年末年始にかけて県境を越える移動が増え、飲食の機会も多くなる。1年前もこれからの季節に第3波が襲ったことを思い出したい。
第5波の感染者数が9月から急減した理由はワクチン普及以外はなお未解明だ。接種率6割に達しない米国でさえ、拡大した感染者が9月上旬をピークに急減した。一つの変異株の流行が一巡する周期のもたらした現象だとすれば、第6波到来は一層現実味を帯びる。
注目すべきはシンガポール、英国の状況だ。ワクチン接種率8割台半ばのシンガポールは、最近の1日当たりの新規感染者数が3千人程度で推移。日本の人口なら7万人規模で、多くはワクチン接種完了者の「ブレークスルー感染」だ。徹底したウイルス抑え込みから共存へ戦略転換した時期に感染拡大しており、同国政府は再び行動制限強化に追い込まれた。
欧米諸国で最初にワクチン接種を始め、接種率6割台後半の英国も新規感染者が約3カ月ぶりに5万人を超え、日本の人口なら9万人規模に再拡大した。英政府は経済を優先し、7月に行動規制をほぼ撤廃していた。
これら実例から分かるのは、ワクチンは2回接種しても抗体量低下で徐々に効果が弱まることだ。そこに行動制限緩和が重なればリバウンドを招く。対処には3回目の「ブースター接種」と、遅れている若者や子どもへの接種の推進、徹底した検査による感染者の早期発見などが必要だ。
政府は12月にも3回目接種を始める方針だが、その前に、8割前後で頭打ちになる可能性が高い2回接種をできるだけ上積みしたい。それには30代以下への接種推進に加え、今は打てるワクチンがない12歳未満への接種が課題となる。
米国では5~11歳へのワクチン接種が許可され、11月にも始まる。ただ子どもが重症化するリスクは低く、日本では子どもは大きな感染源にもなっていない。一方でワクチンの副反応として若い世代を中心にまれに心臓の炎症が起こる。拙速な追随は避け、慎重に進めてほしい。
また年内には飲み薬も実用化されそうだ。現行の点滴方式から安価で簡便な飲み薬に移行すれば、重症化の防止に大きな効果が期待できる。それも踏まえた上で、政府は選挙直前に表明した入院患者1・2倍受け入れを可能にする病床確保策の具体化を急ぐべきだ。