不正会計や派閥抗争で経営の混乱が続いてきた東芝は、会社を3分割して出直すことを決めた。迷走してきた東芝再生の最後の機会になる。
発電設備などのインフラ部門と、電力向けの半導体やハードディスク駆動装置(HDD)を手掛けるデバイス部門が独立する。東芝が4割を出資する半導体メーカーの株式を管理する会社と合わせ、3社がそれぞれ独自の戦略で生き残りを探る。失敗すればライバル企業にのみ込まれるだけだ。
巨額の損失が生じた東芝は、成長力のある医療機器部門を既に売却している。業績不振の家電からも撤退した。テレビから原発まで手掛けた総合電機メーカーの面影はもはやない。
多くの事業分野を抱える複合経営を見直して、事業分野ごとに独立させる手法は、米国や欧州でも一つの流れになっている。
成長している事業部門が黒字をたたき出しても、ほかに赤字部門があれば、会社全体の収益は低水準にとどまる。株価は上がらないし、配当も増えない。投資家は不満を募らせ、「物言う株主」が経営陣にいら立ちをぶつけてきた。
複合企業の代表格である米ゼネラル・エレクトリック(GE)も会社分割に動き始めた。電力、航空機エンジン、医療機器の3社に分かれ、それぞれが独自の戦略をとるのは、東芝と共通している。
複合企業にも利点はあった。半導体のように市況の変化にさらされる部門で赤字が出ても、鉄道や電力といったインフラ部門の安定した収益で補うことができた。
しかし、より高い利益を求める投資家たちは、こうした経営を企業内部のもたれ合いと見るようになった。事業部門ごとの財務内容やコストの開示が徹底しないことも問題視された。
東芝も例外ではない。主力銀行出身の経営トップが物言う株主と対立して退任に追い込まれた。その後、経営陣が投資家との対話を重ねる中で会社分割にかじを切ることになった。
多くの下請け企業を抱える東芝の苦境に、首相官邸や経済産業省も大きな関心を寄せ、過剰介入を疑われた動きもあった。こうした混乱には一応、終止符が打たれるだろう。
会社分割は確かに大きな決断だが、東芝が抱える問題が全て解決するわけではない。本来株主への配当を目的に短期の収益を追うだけでなく、企業として長期的に成長できる基盤づくりを重視してほしい。
そのためには人工知能(AI)、量子技術、再生エネルギーといった分野に思い切った投資が必要なのは言うまでもない。分割された会社は、株主に投資の目的や効果を、きちんと説明し、理解を得る必要がある。
国内で会社分割に踏み切った企業はまだわずかだ。しかし伝統的な事業部門へのこだわりや多角化の失敗で、相乗効果の小さい事業をいくつも抱えている企業は少なくない。
事業ごとに独立すれば合併・買収などの再編を進めやすくなるため、政府も税制面で後押ししている。
東芝グループは各地に製造や開発の拠点を置き、雇用を抱えている。背水の陣を敷いた東芝は株主だけでなく、従業員や地域経済のことも考えながら、再生の責任を果たしてもらいたい。