岸田文雄首相は臨時国会での所信表明演説で、新型コロナウイルス対策費を中心に財政支出が過去最大の55兆7千億円となる経済対策の策定をアピールした。

 コロナ禍から国民生活を守る必要性は理解できるが、重視すべきは支出の規模より、実効性ではないか。衆院選後初の本格論戦の場となる国会である。首相には審議を通じて対策がもたらす効果を明らかにするよう求めたい。

 「13兆円規模の財政資金を投入し、感染拡大に備える」「厳しい状況にある人々、事業者に17兆円規模となる手厚い支援を行う」「デジタルや気候変動問題への対応で、20兆円規模の財政資金を投入し、新たな時代を切り開いていく」

 所信表明演説で、首相は巨額の財政支出に繰り返し言及し、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」と命名したと語った。

 だが対策の裏付けとなる2021年度補正予算案の財源は、多くを新たな国債発行で賄うため、財政悪化が一段と加速する。18歳以下への10万円相当の給付では、クーポン配布に967億円の事務費がかかるため、費用対効果の面から疑問視する声が上がっている。

 首相の演説に欠けていたのは、結局は国民につけ回しされる莫大(ばくだい)な借金がどのような成果を生むのかの説明だ。コロナ絡みの企業倒産は10月に159件と月間最多を更新。平均賃金は先進国で下位の水準にある。こうした状況を改善してこそ、意義ある財政支出と評価されるはずだ。

 政府は、コロナウイルスの「オミクロン株」急拡大を受け全世界を対象に外国人の新規入国を禁止した。首相は演説で水際対策の強化について「批判は私が全て負う覚悟だ」と述べた。経済社会活動に多大な影響を与えかねない政策決定に当たって、行政府の長としては当然の姿勢だろう。

 同時に、安倍晋三元首相や菅義偉前首相が在任中、あやふやにしてきた結果責任も負わなくてはならない。その決意を示し続けてこそ、首相の言葉が国民の心に響き、施策への理解と協力が得られると自覚すべきだ。

 首相はコロナ危機を克服した上で「新しい資本主義」の実現を目指すと強調した。格差や貧困を拡大し、気候変動問題も深刻化させたとする新自由主義からの転換を図る考え方のようだが、広く国民に行き渡る「成長と分配の好循環」につながるのか。まずは演説で列挙した方策の着実な実行が不可欠で、首相の指導力が問われよう。

 外交・安全保障政策を巡っては、敵基地攻撃能力の保有も選択肢に「スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していく」と明言した。

 確かに日本を取り巻く安保環境は厳しさを増している。だが「専守防衛」を旨とする憲法の解釈に関わり、国論を二分するようなテーマで拙速な議論は避けねばなるまい。近隣国との間で緊張感を高める恐れもある。

 国会開会中の8日には、太平洋戦争の発端となった真珠湾攻撃から80年を迎える。当時の指導者たちは開戦反対論を抑え込み、無謀な戦争に突き進んでしまった。

 首相は演説冒頭で「信頼と共感を得る、丁寧で寛容な政治」を進めると改めて表明した。内政だけでなく外交でも、貫くべき信念であろう。