2022年はどんな一年になるのだろうか。新型コロナウイルスなど心配なことは多いが、いい一年になってほしい。女性書家の河瀬法子・月刊書道誌「開眼」(松江市東朝日町)主幹(65)に「今年はこんな年になってほしい」との願いをもとに、「今年の漢字」をしたためてもらった。(Sデジ編集部・宍道香穂)
「今年の漢字」の発表は年末の恒例行事。日本漢字能力検定協会が、世相を表す漢字を募集し、最も多かった字が京都市の清水寺で書き出される。昨年12月13日に発表された「今年の漢字」は「金」。東京五輪での日本人の活躍、新型コロナ禍での給付金や支援金を表したように感じる1字が、大きな和紙に記された。さて、一番早い「今年の漢字」は何だろうか。
河瀬さんが書いたのは「宝」の旧字体である「寶(ほう)」。家を表すウ冠の中に、「玉」と同じ意味を持つ「王」と、水や酒を入れる容器を表す「缶」の旧字体、下にはお金や子どもを表す「貝」がある。家の中に、大切なものがぎゅっと詰まっている様子を想像できる。
河瀬さんは「物質的なものだけでなく、ご縁や人との交流といった“目に見えないもの”も大切にできたら、との意味を込めて選びました」と話した。願いや希望がこもったポジティブで明るい言葉を、と考え、大切な宝物を表す「寶」を、隷書体(れいしょたい)で書いた。

隷書体は楷書体などと比べ、直線をつなぎ合わせた記号のような見た目が特徴。視覚的にもメッセージを受け取りやすいと考え、選んだという。確かに、「王」「缶」「貝」といった大切なものがウ冠にしっかりと守られている様子をイメージしやすい字体だ。
書道では文字を選ぶ時、夢や希望、願いを込めた前向きな字を選ぶことが多いという。加えて、1字に深い意味が込められた字を選ぶことで幅広い解釈が可能になり、見た人がそれぞれにメッセージを受け取ることができる。
河瀬さんがしたためた「寶」も、見た人それぞれが自分の「宝物」をイメージできて、温かく幸せな気持ちになる字だ。身の回りのものや人、目に見えるもの、見えないもの。あらゆることへの感謝を忘れない1年にしたいと、強く感じた。

▷晴れやかな気持ちで、願いを筆に込めて
河瀬さんは書道家の父・河瀬断魚(だんぎょ)さんが創設した書道誌「開眼」主幹のほか、公益財団法人「独立書人団」の審査会員や「島根独立書人団」の常任理事を務め、展覧会への出品や、松江市や出雲市平田町を中心に書道教室を開くなど、書道界の発展に尽力している。

書道と言えば、冬休みの子どもたちには「書き初め」が待っている。始業式前に慌てて書き初めをした経験のある人も多いのではないだろうか。
書き初めについて河瀬さんは「筆に思いや願いを込めて書いた字には力強さがある。今後も継承されてほしい文化の一つ」と語る。キーボードで打ち込んだ言葉やペンでメモした文字とは異なる、筆と紙を使う独特の感覚が書き初めの魅力といい、「筆で書く感覚を通して自分の願いを再認識できるし、今年も頑張るぞと、晴れ晴れしい気持ちになれる」と、書き初めの意義を話した。
書き初めをする際の心構えとして河瀬さんは「日常のにぎやかさと少し離れて、静寂な環境で、気持ちを整えて書くと良いと思います」とアドバイスした。始業式前に慌てて筆を取り出すことにならないよう、落ち着いて心を込めて書き初めに取り組みたい。
「新年の誓いを立てても、どうせ1月末には忘れてしまう」といった声を聞くことも確かにあるが、一歩立ち止まり、自分の現状や将来への希望、目標をじっくりと見つめ直すことには意義があると思う。年末年始が過ぎ、日常が戻ると、毎日を流れ作業のように過ごしてしまいがち。心を落ち着けて自分と向き合う姿勢を日常生活に取り入れ、「寶」の字を忘れずに過ごす1年にしたい。