岸田文雄首相はバイデン米大統領とテレビ会議形式で会談、経済安全保障などをテーマにした外務・経済担当閣僚による新たな協議の枠組み(経済版2プラス2)の新設で合意した。

 同時に「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進するため、日米同盟を強化する方針を確認。大統領が今春公式訪問し、日米豪印4カ国の「クアッド」首脳会合を日本で開催することでも一致した。いずれも台頭する中国をにらんだものだ。

 首相就任後、対面ではないものの、1時間20分にわたる初めての本格的な日米首脳会談。軍事力を増大させ、尖閣諸島を含む東シナ海や南シナ海での海洋進出、台湾への軍事的な威嚇、新疆ウイグル自治区や香港での人権弾圧などについて、中国に改善を促すために単独ではなく、日米、クアッドで連携するのは一定の意味があろう。

 ただ、「中国包囲網」一辺倒で、東アジアの不安定要因を取り除けるだろうか。「力には力で」ばかりでは、かえって緊張を高める可能性は否定できない。日本にとって地政学的にも経済的にも中国は重要なパートナーだ。ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮の動きを止めるには中国との協力が欠かせない。

 「中国には主張すべきは主張し、責任ある行動を求める」と強調する岸田首相は、首脳会談でも中国の人権問題に対する深刻な懸念を共有し、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を再確認した。ならば、途絶えている日中首脳間の対話を再開させることが岸田外交の優先課題だろう。北朝鮮問題に対処するには、何よりも日韓関係の立て直しが急務だ。

 危惧されるのは、岸田首相が大統領に「敵基地攻撃能力」の保有検討を含め、日本の防衛力を抜本的に強化する考えを伝えた点である。「検討」の表現を加えているとはいえ、国会や国民的な議論を経ていない安全保障政策の大転換を対米公約したと受け取られかねず、既成事実化していく恐れをはらむ発言だ。

 今回の首脳会談では議題にならなかった米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設も、懸案として横たわる。法廷闘争を辞さない地元の反発に加え、埋め立て海域で見つかった軟弱地盤の改良工事のために、完成までに膨大な月日と予算がかかることは避けられそうにない。

 その間、普天間飛行場の危険性が放置されても「唯一の解決策」と言い続けるのか。日米首脳で現実を見据え、胸襟を開いた協議を始めるべきだろう。それが岸田首相の掲げる「新時代リアリズム外交」ではないのか。

 会談に先立ち日米両国は、核拡散防止条約(NPT)の重要性を確認する共同声明を発表、首相と大統領は「核兵器のない世界」実現へ連携することを確認した。総論だけでなく、ロシア、中国など核保有国を巻き込んだ具体的な道筋を示さなければならない。

 内政問題に苦悩するバイデン政権は、中間選挙を控え、外交政策も内向きになりがちだ。中国と覇権争いを演じる米国の要請を受け、日本は対中包囲網と防衛力強化を一段と進めるのか。むしろ、東アジアの緊張緩和に向けた構想力を磨き、主体的かつ重層的な外交を展開していくことこそ、求められている。「日米同盟強化」の先の戦略を描いてもらいたい。