中国の習近平国家主席は北京冬季五輪の開会式出席のため訪中したロシアのプーチン大統領と会談した。両首脳はウクライナ情勢に関連して北大西洋条約機構(NATO)の拡大反対で合意し、中国の人権問題に抗議して五輪を「外交ボイコット」した米欧に対抗して結束を誇示した。
中国は人権のほか強引な海洋進出や台湾の問題、ロシアは対ウクライナ国境への大規模な軍隊展開などで米欧との対立を深める。米国はロシアのウクライナ侵攻に備えて軍隊を東欧へ増派。昨年来、中国は台湾への軍事威嚇を繰り返し、日米欧と中ロはアジア海域で競い合うように軍事訓練を実施してきた。
北京五輪は米欧など民主主義陣営と強権的な中ロの確執が激化する中で始まり、世界の平和と安定の危うさを浮き彫りにした。「新冷戦」の長期化は必至であり、軍事的な衝突の可能性も否定できない。米欧や中ロは軍事力に頼らず、緊張緩和を図る建設的な対話に真剣に取り組むべきだ。
中ロ首脳は会談で両国の「全面的な戦略的協力」の重要性を確認し、両国の結束で米国中心の国際秩序に挑戦する姿勢を鮮明にした。長文の網羅的な共同声明にはNATO拡大のほか、米国が推進するインド太平洋構想や西側民主主義の押し付けに強く反対し、「世界の多極化と国際関係の民主化」を推進していく戦略を盛り込んだ。
中ロに共通するのは米欧が領土や勢力圏を奪おうとしており、放置すれば自国の存亡に関わるという強い警戒心だ。中国としては米欧などの民主化支援によって香港が分離・独立するのを恐れて統制を強化した。台湾や東・南シナ海の海洋権益も大事な核心的利益だ。
ロシアも旧ソ連の勢力圏だった国々がさらに民主化されてNATOに加盟し、自国の「縄張り」が狭まっていくことを強く懸念。それを阻止するため軍事力をてこにして米政権と交渉し、譲歩を得ようとしている。
一方、米欧の側には中ロの覇権主義的な対外行動や非民主的な専制政治への反発があり、双方の相互不信は根深い。
和解と共生のためには互いに挑発せず、相手の政治体制や価値観を尊重して対話を始め、まずは互恵をもたらす経済貿易や軍縮、環境対策などで協力を進めたい。人権状況の改善には、国情に合わせて緩慢でも着実な民主化を粘り強く働き掛ける必要があろう。
今年に入って北朝鮮はミサイル発射実験を繰り返している。北朝鮮の核・ミサイル開発は台湾問題と並ぶアジアの不安定要因だ。日米韓3カ国は近くハワイで開く外相会談で対応を協議し、連携の強化を図る。北朝鮮に影響力を持つ中ロにも協力を求めたい。
中ロ共同声明には東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出計画について「環境への影響を深く憂慮する」との文言も盛り込まれた。日米同盟の強化によって対中けん制を図る日本への不信感の表れにも見える。日本は科学的な根拠を示して安全と判断した経緯を説明する必要があろう。
1972年の日中国交正常化から50年。両国は長い交流の歴史を持つ隣国同士であり、今も経済や文化、人的なつながりは深い。岸田政権は米国一辺倒ではなく、独自の外交戦略をもって、対中関係の立て直しを検討するべきだ。