北京冬季五輪は、はや中盤に入った。新型コロナウイルスの感染爆発への不安が覆う中で、連日繰り広げられる悲喜さまざまなドラマは、スポーツの魅力を十二分に伝えてくれる。あらためてアスリートたちの躍動へ拍手を送りたい。

 金銀銅のメダルを競う五輪は「勝者」と「敗者」を生む。ただ、メダル候補に挙げられながら、及ばなかった日本人選手が「申し訳ない」と謝る姿は、私たちが「期待」という名のメダル至上主義の思考に陥っていることと無縁ではない。そこに届かなくとも、夢を、感動を、勇気を与えてくれたシーンは、今大会でもいくつもあった。メダルに代わる尊い価値を見せたのだ。

 ノルディックスキー・ジャンプ混合団体。先陣を切った女子のエースの高梨沙羅選手が大ジャンプに成功した直後、スーツの規定違反で、まさかの失格となり、泣き崩れた。だが、残りの3人が懸命に飛び、2回目に進める上位8チームに滑り込む。そして、傷心の高梨選手は2本目も大ジャンプを披露、3人もつなぎ、4位まで巻き返した。その驚異的な精神力と、一つの失敗をカバーするチーム力の強さに目を見張った。

 高梨選手は自身のインスタグラムにこうつづった。「皆様を深く失望させる結果となってしまった事、誠に申し訳ありませんでした」「私の失格のせいで皆んなの人生を変えてしまったことは変わりようのない事実です」…。写真の部分は黒一色だった。

 心中を察するには余りある。しかし、私たちが高梨選手から感じたのは、失意のどん底にあっても力を振り絞り、やり抜いた、たくましさだ。高梨選手は長い間、世界のトップレベルを維持してきた。謝る必要は全くない。

 ショートプログラムで出遅れたフィギアスケート男子の羽生結弦選手。フリーで史上初めての4回転半ジャンプに挑戦したものの、着氷に失敗し、目指していた3連覇を果たせなかった。2度の金メダルにも満足せず、未到の領域に挑んだ向上心と想像を絶する努力は、称賛に値する。

 右足首の大けがからの回復が長引き、復帰戦が平昌(ピョンチャン)冬季五輪になった4年前、逆境を見事に克服して頂点に立った姿に、どれだけの人たちが力づけられたか。こんな羽生選手の歩みを振り返れば、「ありがとう」の言葉しかない。

 フリースタイルスキー女子モーグルの川村あんり選手は5位となり、「メダル候補としてずっと挙げていただき、取れなかったので申し訳ない気持ちでいっぱいです」と涙ながらに語った。17歳の高校生が、世界を相手に互角に戦うところまで成長したことに、胸を張ってもらいたい。

 日本オリンピック委員会(JOC)は今回五輪でメダル獲得目標を公式に掲げなかった。とはいえ、日本選手団の伊東秀仁団長は開会式前日に「前回の平昌を超えたい」と話している。

 メダルを逃した悔しさを一番感じているのは、期待と重圧を背に大舞台に向けて日々厳しいトレーニングを積んできた選手本人だ。勝敗にこだわる気持ちは分かるが、メダルを取れなくても、アスリートたちの本番までの努力が色あせるわけではない。私たちも過度のメダル至上主義から脱却すべきではないか。