文部科学省が公立小中高校などの教員不足の実態を初めて全国調査した。昨年4月時点で2558人が計画通り配置されていなかった。管理職も含めて他の教員の負担が増え、しわ寄せは子どもに及ぶ。過去には一部の授業ができず、自習が続いた自治体もある。
団塊世代の大量退職で採用が増える一方、忙しすぎて「ブラック職場」とまで言われる教職の志願者が減ったことが背景にある。穴埋めに非正規教員が担任を務めることも珍しくないが、こちらも重い負担と低賃金で人気がない。学校を魅力的な職場にするには、非正規依存の構造を転換し、正規教員を増やすべきだ。それには教育予算を増額する必要がある。
調査結果は実態の一端を切り取っただけだという指摘もある。都道府県や政令市など68カ所のうち、18の自治体が、小学校と中学校のどちらかで不足数を「ゼロ」と答えたからだ。
現場の実感にそぐわない結果になった最大の理由は、教員を確保しやすい年度初めに調査したためだ。産休育休や精神疾患による休職や退職は年度途中で出やすい。「年度途中では2倍ぐらいの欠員があるかもしれない」と話す専門家もいる。
文科省は今後、年度の途中でも調査してほしい。財務省は増員要求をなかなか認めないが、教員不足の実態を示して「もっと教育予算を」と粘り強く迫るべきだ。国会でも地方議会でも政治家は後押ししてほしい。
これほど学校が厳しい状況になった原因は明らかだ。さまざまな「教育改革」で仕事が大幅に増えたのに、行財政改革で正規教員は減り、身分の不安定な非正規教員が増えて給与水準も下がったからだ。世代交代や社会の変化も重なった。その結果、教職が不人気になって志願者が減る悪循環が起きている。
この20年で教員の仕事は急増した。学力低下が騒がれ、授業時間が増えた。小学校では英語が教科になった。思考力や判断力、表現力を求める「主体的、対話的で深い学び」の導入で評価内容や方法も変わった。いじめや不登校の指導も大変だ。
だが、地方財政などの改革で小中学校の教員給与の国庫負担は2分の1から3分の1に減り、自治体の財政力の差で正規教員の比率が左右されやすくなった。
現場で無理を重ねた結果、2016年度の文科省調査では中学校で6割近く、小学校で3割強の教員が過労死ラインとされる月80時間超の残業をしていた。週の平均勤務時間は06年度の調査より増えたが、この間の主な対策は業務の効率化や教員の意識改善ぐらいだ。
働き方改革は必須だが、状況を改善し、教員がゆとりを持って子どもと向き合うには人手が要る。教育費の公的支出を国内総生産(GDP)比でみると、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準にある。教育予算を拡大し、子ども1人当たりの正規教員数や事務職員らスタッフを充実させたい。
「少子化で将来教員が余ると困るから、今は非正規に頼る」という政策のままでは、事態は深刻化するだけだ。法定の教員数を正規教員で確保し、教員と子どもたちの環境を改善するべきだ。
そのためには政治家の決断が必要だ。「聞く力」があるという岸田文雄首相はぜひ、学校現場の悲鳴を聞いてほしい。