「起業に必要なのは、助言を聞く力を持つこと。本当に自分の力になってくれる人の言葉か、そうでないのか。それを聞き分けるのが重要」-。こう話してくれたのが、松江市内で島根県産100%の綿製品を製造販売している加藤完一商店の藤原潤代表(35)。しまね産業振興財団が開催した起業入門セミナーで体験談を語った際に取材した▼3年前に起業し、現在は雲南市大東町内の1・3ヘクタールの畑で栽培した綿を原料にTシャツなどを生産。松江市内の小売店を通して販売している▼Tシャツの値段は1枚1万3200円。ほとんど輸入に頼っている綿を全て島根県産に限定した「希少品」。光沢があり、肌触りが柔らかい超長綿と呼ばれる高級素材を使っているが、安価なファストファッションに慣れている層も結構買ってくれるそうだ▼藤原さんが代表兼一人従業員の同商店は、大正時代に祖母が安来市に開店した雑貨店の屋号を引き継いでいる。そこから起算すれば、創業105年を迎える。「農作業を含むこのビジネスに一人で飛び込むのは無謀と言われたが、誰も手掛けていない分野を狙った」という▼初めての綿花栽培は農家の人に手伝ってもらい、糸加工は外注。棚田が整然と並ぶ大東町山王寺の畑では休耕田も再活用され、景観維持にも一役買っている。島根産綿をもっと増やせないか。地元資源活用型の起業に繁盛の芽が待ち遠しい。(前)