自家製クリームや干しぶどうが詰まった「ブドーパン」
自家製クリームや干しぶどうが詰まった「ブドーパン」
伯雲軒の看板を守ってきた山本敏則社長=境港市末広町、伯雲軒
伯雲軒の看板を守ってきた山本敏則社長=境港市末広町、伯雲軒
自家製クリームや干しぶどうが詰まった「ブドーパン」
伯雲軒の看板を守ってきた山本敏則社長=境港市末広町、伯雲軒

 約70年にわたり境港市民に親しまれたソウルフード「ブドーパン」が姿を消す。製造元の製パン業「伯雲軒」(鳥取県境港市末広町)が3月25日で廃業するため。漫画家の故・水木しげるさんや写真家の故・植田正治さんら郷土の偉人も愛し、かつては市内の全幼稚園のおやつに採用された。山本敏則社長(65)は「パンを愛してくれた方々に感謝でいっぱい」と話す。  (坂本彩子)

 明治期の1897年に創業。当初は和菓子製造を手掛けたが、昭和初期から製パン業に力を入れていった。看板商品ブドーパンを生んだのは、山本社長の父で3代目の昭二さん。「栄養豊富」をうたい文句に、ラム酒入り自家製クリームと、ミネラルを含むシナモンや干しぶどうをパンに挟んだ。

 幼稚園のおやつに採用されて多くの市民が口にして育ち、子どもにも食べさせた。パンを開いて、どちらにクリームが多く付いているか、占いのような楽しみ方も生まれるほど親しまれた。現在は市内のスーパーや喫茶店のほか、県外の百貨店などでも扱われる。

 伯雲軒の廃業は、32歳で家業を継いだ山本社長自ら製造工程全てに関わり、年を取って体力的につらくなってきたためだが、ブドーパン製造のプレッシャーも影響した。「ロングセラーで、お客さんの期待値が高く、がっかりさせられない」と、バタークリームの口当たりや生地の作り方など常に改良を重ねた。そんな苦労をさせたくないと息子たちには継がせず、廃業しようと考えた。

 廃業を知った市内外のファンから「もう食べられないの?」「考え直してほしい」と連絡が相次いだ。長年のファンだという自営業赤山修さん(56)=境港市美保町=は「幼少期に祖母がよく買ってくれた。当たり前の味がなくなるのはさみしい」と惜しむ。

 現在は注文が殺到し、通常の2倍の800個を毎日作る。山本社長は「常にパンを進化させたことが誇り。廃業日に一番おいしくなるかも。感謝を込めて作りたい」ともう一踏ん張りを誓う。

 伯雲軒で予約販売を行っている。問い合わせは電話0859(44)0565。