春の新学期の風物詩は真新しい自転車に乗った中学1年生の登校風景。松江市では銀色の「銀チャリ」が定番という。記者の古里・大分県日田市では白やピンクと色とりどりだっただけに、驚いた。山陰両県の自転車店に聞くと、松江に限らず、益田市でも黒い婦人用自転車が好まれるという地域色がある。校則で決まっているわけでもないのに、なぜなのか。(報道部・森みずき)
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「銀チャリありますか」
新年度を控えた2~3月、松江市学園2丁目のサイクルセンターヨネザワ松江店を訪ねた新中学生はそろって銀チャリを求めた。
系列店が鳥取市や倉吉市、広島県福山市にあり、1月に松江店に転勤してきた店員の森脇永さん(31)は「独特ですよね」と驚きを隠せない。店頭のポップ広告にも「通学車の王道 銀チャリ」の文字が躍る。
特に旧市内で目立つ傾向で、松江市南田町で55年間、自転車店を営む石倉邦夫さん(77)は「ほかの色を置いといても売れない。小さい店舗では売れ残ると大変だ」と苦労まじりに語る。
▽先輩の目が
なぜ、一様に銀チャリなのか。
今春、松江市立第一中学校を卒業した女性生徒(15)も3年間愛用した。「先輩の目が気になって、みんなと一緒の銀色にした。白とか黒はクラスに1人、2人くらいだった」と証言する。高校に進み、「銀チャリ縛り」から解き放たれたが、通学に使っていなかったため傷みが少なく、まだ使うという。
銀チャリ好みは松江独特なのか。
山陰両県各地の自転車店の話を総合すると、松江市内でも鹿島町など旧八束郡では、逆に、黒い自転車が主流。鳥取市では「中学生が10人いたら4~5人は黒。白とシルバーは2人ずつ」、浜田市では「10人に5人は黒」と、おおむね黒が人気だが、松江ほど極端な偏りはない。
かつて銀チャリが定番だった出雲市では、2~3年前から「学校によるが、シルバーと黒の人気が半々に近づいている」という。
▽好きな色で
益田市の旧市内では「ブラックバージョン」と呼ばれ、かごから荷台まで全体が真っ黒な婦人用自転車が10年以上前から、人気がある。
サイクルセンターまつしま(益田市駅前町)の松島健治社長(64)によると「50台出れば半数強がブラックバージョン。カタログにも載っていない種類で、西日本では、ここと九州の一部で流行している」。
そろって同じ色を選ぶ理由について「田舎独特の、みんなと違うものを避ける子どもの社会のようなものがあるのだろう」と分析する。
進級、進学を機に、カラフルな自転車に買い直す人も少なくないという。通学用自転車は大手メーカー製だと6万~7万円と高額で、高校に進んでも乗れる耐久性がある。ヨネザワ松江店の森脇さんは「周りの空気ではなく、好きな色に長く乗ってほしい」と願ってやまない。