2月22日は猫の日。愛猫家の学者などでつくる団体が、「2」を猫の鳴き声の「ニャン」に掛け、1987年に制定した。今年は「2022年2月22日」と2が6個並び、猫好きには例年以上に特別な日に見えるという。松江市に猫が好き過ぎる夫婦のパン屋があると聞き、猫への愛はどれほどなのか、猫の日を前に訪ねた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
うわさのパン屋は松江市東津田町の「IGGY's SHOP(イギーズ ショップ)」。市立津田小学校のすぐ東側にあり、住宅街の近くに位置する。松江市出身の中林大祐さん(35)と、徳島県出身の夏菜さん(30)夫婦が、2018年から営む。店名の「イギー」は夫婦が飼う猫の名前から取ったそうだ。


店舗の広さは33平方メートル(約10坪)。店の看板には猫の絵があり、入り口横には猫の形の傘立てもある。店内に入ると、白色を基調とした明るい雰囲気の内装で壁一面も真っ白。店内の中央にはたくさんのパンが並ぶテーブルが一つ。窓には猫の絵があるほか、レジ横や棚といった至る所に猫に関する置物があり、まさに猫づくしの店。一目見れば分かるほど店内に猫への愛があふれ、近所からは「猫のパン屋さん」と呼ばれるほど。店内の一角には子どもがアニメを見られる設備もある。


猫好きを前面に出した店のため、猫好きの客が多く訪れるという。中林さん夫婦と客との間で、互いの猫のかわいさを長時間、語り合うことが多々あるそうだ。店内には犬や猫の譲渡会のチラシの貼り出しもあり、ペット好きの憩いの場になっている。


▼夫婦ともに猫にデレデレ
中林さん夫婦は動物全般が好きだが、中でも猫への愛が強い。徳島県のパン屋で出会った2人は当時、猫が飼えないマンションに住んでいた。夏菜さんは「猫を飼いたいという思いが募り続け、気付けば猫のことしか考えられなくなった」と振り返る。
2017年、賃貸物件に移り住んだ際にイギー(スコティッシュ、メス)を飼い始め、本格的に猫のとりこになったという。猫への愛が止まらず、2人で店を持つために大祐さんの地元の松江市に戻ってからは、保護猫のプル(キジトラ、オス)、大祐さんの実家にいたチャチャ(茶トラ、メス)も飼った。現在は店舗の2階にある居住スペースで、3匹の猫に囲まれて暮らしている。



夏菜さんは猫について「知れば知るほど新たな魅力が見つかる」と目を輝かせる。イギーはクールな性格で、当初は「人間にあまりなつかないのかな」と思ったが、一対一の時だけ寝転んで甘えてくることに気付いたという。今では料理の最中でもイギーに鳴かれると、手を止めるほどで「家では完全に猫が人間よりも上位にいる」と笑った。
店での大祐さんはほとんど調理場から出ず、新作のパンについて考える職人気質な性格だが、家では、癒しを求めて猫を追い掛け続ける。「結局は猫の気が向かないと、人間の意志では触れない。食べられるものなら食べてしまいたいぐらいかわいい」とデレデレな様子だ。
▼こだわりのパン、連日売り切れに
猫好きな夫婦の店には自然と猫愛があふれる。看板メニューはイギーの外見を再現したパン(税込み216円)。カスタードクリームとジャム状のリンゴが詰まったパンに、ココアのクリームでつぶらな瞳やひげを描き、口と耳はクッキー生地で作った。子どもはもちろん、大人にも人気の一押し商品だという。

イギーのパンを買う人はほとんどが猫を飼っている人で、夏菜さんは会計の際、互いの飼い猫の話で盛り上がるそう。店の名前を飼い猫の名前から取ったことや、イギーの名前は山の形をした「イギリスパン」から取ったことなどを話題に出し、猫とパン、双方の魅力を力説するという。夏菜さんは「猫かパン、どちらか片方が好きな人は、両方を好きになって帰ってほしい」と願う。
夫婦はもちろん本職のパンへの愛は強い。パンの多くに、弾力のある食感になる北海道産小麦「ゆめちから」を使用する。日ごとに異なる気温や湿度に合わせてパン生地の水分を調整し、常に生地が最高の状態で熟成、発酵するよう気をつけている。夏菜さんは「香りや味、食感をひっくるめて、口に入れた時に直感で『おいしい』と思ってもらえるパンを毎日作る」と胸を張った。パン約40種類を扱い、1日に400~600個作るが、午前9時の開店で、昼過ぎには完売して閉店になる日もあるという。

曜日限定、一日限定のパンがあるのも店の特徴。大祐さんが毎日のように新作パンを考案するため、客を飽きさせない。大祐さんは「普段はパンか猫のことしか考えていない」と笑う。
これまで、レンコンと蒸し鶏にごま風味のマヨネーズをかけ、パンに載せた「レンコンと蒸し鶏のタルティーヌ」(同216円)や、明太子とクリームチーズと鶏肉を混ぜたものをパンで包んだ「ミョンナンチキン」(同248円)といったパンに加え、曜日限定メニューとして、ピスタチオを生地に練り込んで焼き上げたベーグルに、和三盆クリームとキイチゴを挟んだ「ピスタチオとフランボワーズと和三盆クリームのベーグル」(同280円)などを販売し、好評だった。昨年は安来市のイチゴやブドウを使ったマリトッツォが人気だったため、今後は地元産品を使用したパン作りに意欲を見せる。

レンコンと蒸し鶏のタルティーヌ。シャキシャキとした食感とごま油の香りがたまらない


夏菜さんは「新しい『おいしい』に出会えるようなパンを提供していきたい。猫の飼い主さんにもたくさん来てもらって、たくさん猫の話ができればうれしい」とほほ笑んだ。
猫愛にあふれる気さくな夫婦のパン屋は、「ニャン」とも居心地が良く、猫好きもパン好きも楽しめる店だった。イギーズショップの営業時間は午前9時~午後6時。完売次第、閉店する。定休日は毎週月、火曜。
