パラスポーツの一種で鬼ごっこのようなペガーボールの人気が高まっている。島根県内では、ひかわスポーツ夢クラブ(出雲市斐川町上直江)が2018年に用具を導入し、貸し出している。お笑い芸人「かまいたち」のテレビ番組で競技が紹介されてから、問い合わせが相次いでいる。体験会に足を運び、競技に挑戦してみた。(Sデジ編集部・宍道香穂)
ペガーボールは特別支援学校の子どもたちにスポーツを楽しんでもらおうと2014年、福岡県で考案された。20メートル四方のコートの中で20秒間、逃げる鬼に布製のボールを投げ、鬼が着ているポンチョの表と裏に付けたボールの数を競う。ポンチョの表面はボールがくっつきやすい素材になっている。
5人組2チームに分かれて先攻・後攻を決め、後攻チームの中から1人が鬼になり、先攻チームは鬼のポンチョにボールを投げてくっつける。続いて鬼と投げる側を入れ替えて、より多くボールを付けたチームが勝ち。

ペガーボールはコートの広さやルールを自由にアレンジできる。ひかわスポーツ夢クラブでもコートを狭くしたり、鬼の人数を増やしたりと、さまざまなルールを取り入れている。
この日は、先攻・後攻は分けずに、ポンチョにくっついたボールが使用したボールの数の半数未満なら鬼の勝ち、半数より多ければ投げる側の勝ち、同数なら引き分けというルールで競技することになった。
▷まずは「鬼」で参加
ルールを確認し早速、競技に挑戦。まずは鬼役で参加する。ポンチョを着て、コートの隅に立つ。縦35メートル、横29メートルのコートの半分を使い、縦約17メートル、横29メートルの中で戦う。対戦相手は小学生4人と保護者2人の計6人でボールを投げてくる。対角線上の隅で、ボールを持った相手チームがスタンバイする。ゲーム開始のカウントダウンが始まった。

「スタート!」というかけ声が響いた瞬間、相手チームのメンバーが一斉に、猛スピードでこちらに向かってくる。左、右、どちらに逃げるか迷う暇もなく距離を詰められ、色とりどりのボールが投げられた。間を縫うように走ってなんとか逃げたが、すぐに追いつかれ、ボールを投げられてしまう。人がいない方へダッシュしたり、フェイントをかけて逆方向へ走ったりと、近くからボールを投げられないよう必死に逃げる。
ポンチョの前側に付いたボールの数は走りながらざっと把握できるが、背中側のボールは見ることができない上にボールが軽いため、どのくらいくっつけられたのか分からない。「あまりくっついていませんように…」と祈りながら、コートの中を逃げ回る。たった20秒と思っていたが、コートの中をあちこち走り続けるのは思いのほかきつく、終了の合図が響く頃には息が上がっていた。

使用したボールは20個で、記者のポンチョに付いていたのは13個。「20秒間、逃げ切れば良い」と高をくくっていたが、負けてしまった。相手の動きを見ながら逃げる瞬発力や、最後まで逃げ続ける持久力が鍛えられると実感した。
▷ボールを投げる側にも挑戦
次はボールを投げる側で挑戦。ボールを手に持ち、準備する。カウントダウンの声が響き、試合が始まった。
布製のボールは想像以上に軽く、狙った方向に飛ばなかったり、遠くに飛びすぎてしまったりして、なかなかポンチョに付けられない。狙いを定めている間にも鬼は動き回るため、なるべく近づいて確実にボールをくっつけたり、鬼が動く方向を予測しながらボールを投げたりと、工夫が必要だ。

やっとのことで2~3個、ボールをくっつけることができたが、ポンチョに付いたボールは半分以下。残念なことに、この日の試合は全て負けてしまった。ペガーボールの難しさや面白さに加えて、自分が思ったほど俊敏に動けなくなっていることを痛感した。
▷シンプルなルールで誰でも楽しめる
ひかわスポーツ夢クラブの若槻かおりマネジャー(31)は「鬼ごっこの延長のような競技で、ルールがシンプルなため、大人から子どもまで誰もが楽しめる。ボールを投げたり走ったりと、全身を動かすことができるのも魅力」と、ペガーボールの面白さを説明した。

高松小学校1年の井上咲那(えみな)さんは「ボールを投げる時は挟み撃ちで狙うなど、試合の前に仲間と作戦を立てるとうまくいくことがある」と、勝利のこつを教えてくれた。どうすれば勝てるのか作戦を練ったり、自分たちでルールをアレンジしたりと、考える力が育まれそうだと感じた。
咲那さんの祖父、佐藤明孝さん(56)は「たかが20秒間だが、走る、ボールを投げる、拾う、よけるためにしゃがむなど、さまざまな動作を繰り返すため、意外と体力を使う」と話した。確かに、20秒間動き続けるのは想像以上にハードだった。仲間と楽しみながら運動不足解消や体力づくりができるのも、ペガーボールの魅力だ。

若槻マネジャーは「知的障害がある子どもさんがペガーボールを体験した時、投げるという動作を初めてできたと喜んでいて、感慨深かった。今後もいろいろな人に体験してもらって普及させていけたら」と話した。ひかわスポーツ夢クラブは、1回1000円でペガーボールの用具を貸し出している。問い合わせは斐川体育協会、電話0853-72-7411。