東京パラリンピックの種目の一つ、ゴールボール。視覚に障害がある選手たちが3人1チームでボールを投げ合い、得点を競う。試合の映像を見ているとかなり難しそうに感じるが、実際にやってみるとどうだろうか。島根大学医学部眼科学講座のメンバーを中心としたゴールボールチーム「スサノオアイズ」を訪ね、プレーを体験した。(Sデジ編集部・宍道香穂)
ゴールボールとは?
全盲から弱視の選手たちが出場するゴールボールの試合。公平性を保つために「アイシェード」と呼ばれるゴーグル状の目隠しを装着し、視界を完全にふさぐ。選手たちは聴覚や触覚といった視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、ボールを相手チームのゴールに向かって投げ、相手が投げたボールが自分のチームのゴールに入らないよう守る。攻撃、守備ともに熱い戦いが繰り広げられる。
バレーボールと同じ広さ、18メートル×9メートルのコートで2チームが、それぞれゴール(幅9メートル、高さ1.3メートル)を背にして向かい合い、交互にボールを投げる。コート内を区切るラインの下にはひもが貼られ、選手はひもの出っ張りやゴールを触ることで自分の位置を確かめる。
ボールはバスケットボールとほぼ同じ大きさだが、重さは約2倍の1.25キログラム。投げるというよりは転がすようにしてゴールを目指す。中に2つの鈴が入っており、選手たちはこの鈴の音を頼りにボールの位置を把握する。


「まずはキャッチボールをしてみましょう」と渡されたボールはずしりと重く、驚いた。予習として見た動画では選手たちは軽々と片手で投げていたが、とても真似できそうにない。両手を使い、やっとのことでボールを転がす。
いざ、プレー
大まかなルール説明を受け、いざプレー。アイシェードを装着すると完全に何も見えない。少しでも移動すると、自分が今、どこに立っているのか、どの方向を向いているのか分からなくなる。必死でひもやゴールを触り、自分がどこにいるのかを把握する。
選手が「音」に集中できるよう、ボールが投げられゴールの判定が出るまで、観客は声援を送ったり雑音を立てたりしてはいけない。審判の「Quiet please(クワイエットプリーズ)!」(静かにしてください)という声の後、ホイッスルが鳴り、試合がスタートした。

まずは相手チームが投げてくるボールをガードする。前衛1人、後衛2人で三角形になるよう位置につく。「鼻や口にボールが当たらないよう、横に飛ぶときは上腕で顔を覆うようにしてください」とアドバイスをもらった。
おなかにボールが直撃するかも…チームメートとぶつかってしまうかも…といった恐怖を振り払い、勇気を出して音のする方へ体を伸ばす。聞こえてくる相手チームの足音から、右・左・中央のうちどの選手が投げたかを、鈴の音からはボールの現在地を判断する。ボールがこっちに来ている!と分かると一気に緊張感が増す。ボールが体に当たっても、そこからはねて転がり、ゴールラインを越えてしまうこともある。転がってきたボールがすっぽりと手におさまったときは思わず「うおー!」と喜びの声がこぼれた。

ボールをパスされ、いよいよ投げる側に。立ち上がり投げようとするも、背後から「もう少し後ろに…向きはもう少し左です」という声が。とんちんかんな場所に立っていたらしく、優しい審判の指示を頼りに、位置や向きを修正。このやりとり、スイカ割りに似ている…と思いつつ、気を取り直してボールを投げる。
ボールが手を離れた後はひたすら耳を澄ます。ボールがはねて転がる音や鈴の音、ガードする相手の足音、「アウトです」という審判の声、あらゆる音を頼りに状況を把握する。ホイッスルの音とともに「入りました」の声が聞こえたときは思わずガッツポーズをしていた。
「やった!入ったんだ!」。ボールがゴールにおさまる光景は見えずとも、わあっと盛り上がる空気や達成感を感じることができた。
試合が終わり、アイシェードをはずすと汗びっしょり。摩擦で腕がすりむけないよう長袖を着ていたこともあるだろうが、想像の何倍もハードなスポーツだと実感した。そして案の定、全身が筋肉痛になり、自分の運動不足ぶりを痛感した。
体験する前に予想していたより、激しく熱い競技だと実感した。何より、自分がゴールを決めたり、守ったりできるとうれしい。チームでの一体感も楽しむことができた。
パラスポーツの裾野を広げ、受け皿を作りたい
東京オリンピック・パラリンピックの開催を受け、パラリンピック競技の盛り上げのために何かできないかと、島根大学医学部眼科学講座の谷戸正樹教授の提案で創設。医師である佐野一矢助教(40)を中心に、今年2月から練習を始めた「スサノオアイズ」。同講座の医師や視能訓練士らが月に1回、勤務後に集まりプレーを楽しんでいる。

佐野さんは「視覚に障害がある人がスポーツで活躍する場が、島根にはまだまだ少ない。こうしてチームを作ることで受け皿を増やしたい」と話した。今後は日本ゴールボール協会へのチーム登録や大会への出場もしたいと意欲を見せる。「まずはゴールボールという競技のことや島根にもチームがあるということを知ってもらいたい。メンバーも募集中です」。
「夢はでっかく」と、「ゆくゆくはチームからパラリンピック出場選手を輩出できたらいいね」「患者さんともプレーできたらうれしいね」と語り合うメンバーたち。山陰のゴールボール選手が世界の舞台で活躍する姿を見る日もそう遠くないかもしれない。