住宅など計32棟の建物が焼けた松江市島根町加賀の漁業集落火災から1日で1年となった。慣れ親しんだ地で再起を誓う人がいる一方、高齢などの事情で土地を離れる人もおり、集落再生の道のりは平たんではない。それでも火災防止を軸にした復興計画が進み、一度は移住を考えた被災者が改めて故郷の魅力に気付くなど、更地になった焼け跡からは復興の芽が吹き始めている。 (佐貫公哉)
3月末、1年前の大火の現場に、自宅を全焼した浜崎一成さん(63)の姿があった。がれきは撤去され、足元には草花が生え、時の経過を感じさせる。浜崎さんは「ここは先祖代々住んできた場所だ」と静かに口にした。
一帯は島根町内でも特に古くから住む人が多く、結びつきも強かった。住民と海と共にあった記憶をつなぎ留めるためにも、ここに住居を再建するつもりだという。
昨年4月1日、加賀の夜の空を赤に染めた大火で自宅を失った住民は、町内外で空き家やアパートに身を寄せながら、いかに暮らしを立て直すかを考え続けている。
災害を機に人口減少が加速する恐れもあり、松江市も集落再生の整備を急いでいる。宅地の再整備計画では防火機能を高めるため道路を拡幅する予定で、6月から測量に入る。2月には国が、住宅が全焼した世帯に対し、最大300万円の住宅再建費を支給するのに合わせ、市は部分焼の世帯でも補修費として最大40万円を支給するサポートを敷く。
ただ、厳しい現実もある。地元住民によると、家屋が全焼した世帯のうち再建を目指すのは半数に満たないという。家主の高齢化や資金面などの課題があるとみられ、ある地区住民は「空き地ばかりになる。寂しい」と話す。
一時は移住を検討したものの、時間の経過を経て加賀への愛着が増した人もいる。「やっぱり海はええわと思う」と話すのは、同町大芦の市営アパートで仮住まいする石橋義紀さん(81)。被災後、住民のつながりが薄れないよう加賀の集会所で開かれる「茶話会」に毎月参加する。
山に囲まれたアパートから、目の前に青い海が広がる加賀に来るたび、幼少期からの記憶が思い起こされ「もう一度暮らしたい」との念が増すという。娘のサポートを受けながら跡地に家を再建することにした。
大規模火災の際に避難所となるなど、被災者に寄り添う島根公民館の田中豊館長(67)は「被災者にとって有形無形の傷を負う一年だった」とおもんぱかり、「少しずつでも元の生活を取り戻せるよう、支援の思いと行動を保っていく」と続けた。
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島根町加賀の大火 2021年4月1日夕方に発生し、建物被害は民家など全焼22棟、部分焼2棟、ぼや8棟で焼失面積は計約2573平方メートルとなった。建物のほか山林を焼き、約22時間後に鎮火した。住民や消防団員ら計4人が軽いけがを負った。











